大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

鳴らない楽器と鳴らせないプレイヤー

   

輸入物の下着の値段を見て、
ひっくり返りそうになったことのある女子なら、
「洋服の値段は使う布の量ではない」というのは、
嫌というほどわかっているわけですが。

なーんか納得できないのが、
新品のくせにボロくさいジーンズに、
はい?というくらいのお値段がついていて、
それを、喜んで、ほくほくしながら買う人が、
実にたくさんいるという事実。
(そして、そういう人が、わが家にもいるという事実)

で、たとえばそんなジーンズを扱っている、
あんなお店や、こんなお店に行った日には、
こうやってボロくさくするために、
どれだけこだわって、
手をかけているかなんてことを、
お店の店員さんが、これまた嬉しそうに、
ほくほく話す。

ああ、これ、ギターと一緒だわ。

ギターも「エイジド」かなんか言っちゃって、
綺麗にぴかぴかにしておけばいいのに、
わざわざ、あっちこすったり、
こっち傷つけたりして、「味」つけて、
はい?みたいなお値段で出しているのに、
これまた、嬉しそうに、
ほくほくしながら買う人がいっぱいいるとか。

もちろん、いわゆる「オールド」というのが買える方は別ですが、
もはやその世界は骨董品や美術品みたいな取引金額になっているとかで、
私みたいな聞きかじりには到底理解できない、別次元のようです。

男子って、服や楽器は、
わざわざ皺が付いたり、傷がついたり、
人の手垢とか、
なんならタバコの焦げ跡までついているのが好きなくせに、
女の子は、やっぱり「若くてぴちぴち」の方が好きなんですよね。
ばかねー。

さて。

ものすごい脱線気味にはじまってしまいましたが。

よい楽器って、古くなるほど「よく鳴る」と言われます。
よく鳴るか鳴らなくなるかは、
個体差もあるし、賛否両論あるようですが、
少なくとも「味のある音」になることは疑いの余地がない。

素材の経年変化や、弾き手のクセや、
細かい傷やちょっとしたゆがみや、
そんな積み重ねが、
音を少しずつ、味のあるものにしていくわけです。

これって、声も全く同じです。

ツルッと、ぴっちぴちの声帯様より、
使い込まれた、経年変化のある声帯様の方が、
味のある原音をつくるし、

張りのあるお肌や、充実した筋肉に共鳴するよりも、
ちょっと練れた感じのお肌や、
クセのついた筋肉に共鳴する方が、
音にキャラクターが出るのは、
想像に難くありませんね。

問題は、その楽器を鳴らせるチカラを、
歌い手が蓄えていられるかどうかということです。

オールドの楽器を持っている人が、
みな素晴らしいプレイができるわけではないのと同じように、

せっかく楽器がいい音になっても、
プレイヤーである歌い手に、
その体力やエネルギーがなくなってしまっては、
楽器に負けてしまいます。

ギターやピアノなら、
人の手から手にわたって、
どんどん価値を上げていくことも可能ですが、

ヴォーカリストの楽器だけは、
ひとり一生に一個しかもらえません。
そして、その人の命が終わったら、
楽器の命も終わり。

年を重ねて、
自分という楽器の価値が高まったときこそ、
最高の音を出せるカラダとテクニックを磨きたい。

声こそが、
どんなオークションでもけして買うことのできない、
特別な特別な楽器なんです。

◆【ヴォイトレマガジン『声出していこうっ!me.』】
ほぼ週1回、ブログ記事から、1歩進んだディープな話題をお届けしているメルマガです。無料登録はこちらから。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, カラダとノドのお話, 声のはなし

  関連記事

「オケ」じゃなくて、プレイヤーの顔のついた「音」を聞くんですよ。音楽って。

年寄り自慢をするつもりは毛頭ありませんが、 (あたりまえ) 一昔前は歌を歌いたか …

no image
「自分の声に興味ある人なんかいませんよ」

芸能界や音楽業界の人とばかり関わりあってきたからか、 それとも、私自身がボイスト …

「違和感」を放置しない。

私たちの脳は毎秒1000万ビット以上の情報を処理できると、 神田昌典さんが書いて …

「今さら?これから始めてモノになるの?」

ビデオレターの課題を続々と送っていただいていますので、 一部になりますが、少しず …

無駄な力を抜く!〜そんな筋肉つかいません!〜

「力を抜いて!」 「リラックスして!」 「力まないで!」   このこと …

「いつものあれ」でお願いしますっ!

ずいぶん前のこと。 たまたまつけたテレビに、 ホイットニー・ヒューストンが出てい …

「カッコいいもの」と、それ以外

音楽学校などで、 「この曲を練習してきて」と課題曲を渡すと、 「この通り歌わなく …

大きな声を出せないときに、やるべきこと。

各地で次々と緊急事態宣言が解除され、 コロナ自粛も出口が見えてきました。 とはい …

カセットテープ、どうしてます?

データ断捨離もほぼ終了したところで、 「眠っているデモ音源をライブラリーに登録し …

同じ音を、同じ音色、同じ音圧で、 100発100中で出す

人間のカラダは「まったく同じ音」を2回以上出すことはできない楽器。 そんなことを …