大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「でもしかコーラス」と「プレイヤー至上主義」

   

歌の学校に通っているとき、
ある子のトラ(エクストラ=代役)を頼まれたことがきっかけで、
コーラスのお仕事を始めることになってしまった私。

それまで音楽と言えば洋楽一辺倒。
J-Popの世界など、まったく興味がなかったし、
正直「歌謡曲」は、よいも悪いも、
さっぱりわからない。

初仕事でご一緒させていただいたタレントさんに至っては、
顔も名前もろくに知らない状態で、
リハーサルに挑みました。

「だって、突然頼まれたから」
「何から手をつけたらいいか、わからなかったし」
「教えてくれる人は誰もいなかったし・・・・」

今の私が、そんな言い訳をしながら、
中途半端な気持ちで仕事に臨んでいる人を見たら、
必ず、こんなことばで一喝するでしょう。

「本気でできないことは、
自分のためにも、他人のためにもならないんだから、
やめなさいっ!」

それでも、なんでも、
プロとアマチュアの境界線が曖昧な音楽の世界で、
誰もが「プロのお仕事」と認める、
紛れもない「メジャーの仕事」をやりたかった。

ホール規模のコンサートや、
全国ツアー、テレビ出演という、
見たこともない、
華やかな世界に身を置きたかった。

そして、なにより、
人並みより低い時給で、
うだつの上がらないバイト生活をしていた私にとって、
数時間ステージに立つだけでもらえるうん万円、
というギャランティは、夢のようで。

おまけに、アゴアシ枕と至れり尽くせりで、
日本全国を旅できるなんて・・・。

これって、
なんの知識も経験もないのに、
時給と待遇につられて、
テキトーに専門職の面接受けたら、受かっちゃった!
みたいな感じです。

ナメるのもたいがいにしろっ!という話です。


コーラスのお仕事というのは、

華やかで楽しそうに見えるけれど、
それはそれはハードで、
さまざまなスキルや才能を試される、
紛れもなく「スペシャリスト」のお仕事です。

読譜力や基本的な歌のスキルは、
基礎の基礎に過ぎません。

ニュアンス、グルーヴ、ことばの置き方、音色・・・
極めれば極めるほど、
「ハモる」ことは奥深い。

大きなステージに立つとなれば、
チームでステップをそろえるだけでなく、
振り付けがつくこともあります。

踊りの素養はもちろん、
平均以上のルックスも要求されます。
音楽性にあった見せ方をくふうするチカラも必要です。

無理難題の多い音楽業界で、
さまざまな要求に柔軟にこたえる、
ハード・スケジュールをしなやかにこなしながら、
体調と声を完璧に管理する、
バランスのよい人間関係を維持し、
華やかなステージを後方で支え続けるなど、
メンタルの強さと適正も試されます。

コーラスのプロフェッショナルと言われる方たちは、
いやはや、ほんっとにすごいんです。

 

なんの準備もないままで、
「でもしか」で業界に飛び込んでしまった、
「ヴォーカリストくずれ」の私が、
ボッコボコにされたのは、
もう必然と言えば必然です。

穴があったら、入って土かぶりたい。
戻れるものなら戻って、自分をボッコボコにしたい。
思い出すほどに、恥ずかしい経験です。

 

さて。

そんなプロフェッショナルなお仕事、
“サポートコーラス”も、
1980年代当時は、
正当に評価されていない現場が多々ありました。

セクハラにあって泣いている人もいたし、
それが黙殺される現場の雰囲気もありました。
酷い噂も、ずいぶん聞きました。

コーラスというお仕事を「飾りもの」的に考えたり、
あからさまに下に見ている人も、確実にいました。

「コーラスなんか誰でもできる」と、
本気で思っていた人もいたようです。

プレイヤーと比べ、
ギャランティ面でも冷遇されている現場が多く、
納得できないからと、交渉しても、
結局却下されたという話をよく耳にしました。

女性中心のお仕事ですから、
まぁ、男尊女卑のなごりだったのでしょう。

すべて、私の経験的所感です。


サポートのお仕事から離れて、早20数年。

セクハラ、パワハラ問題が顕在化して、
女性の権利もずいぶん守られるようになりましたし、

ネットの存在のおかげで、
うかつなことはできない時代にもなりました。

昭和の芸能界的空気感を引きずる人たちはもう、
引退しちゃってるかもしれません。


お互いがまじめに、一所懸命、

プロフェッショナルなお仕事を提供する。
リスペクトを持って、お互いの仕事を評価する。

よい現場って、そんなプロフェッショナル集団がつくる。

そんなよき現場をつくれるパフォーマーで、
スタッフでありたいと思います。

 

◆【ヴォイトレマガジン『声出していこうっ!me.』】
ほぼ週1回、ブログ記事から、1歩進んだディープな話題をお届けしているメルマガです。無料登録はこちらから。バックナンバーも読めます。

 - B面Blog, コーラス, 音楽人キャリア・サバイバル

  関連記事

若さのエネルギーなんて、誰だって持ってるし、誰だって失う。

あれは中学1年の頃。 美術の時間になると、 テストの成績の1位〜3位を、 常に争 …

「なんで電話番号わかったんですか?」

今日、来客中に電話が鳴り、 リビングにいたジェフ夫さんが対応してくれたようなので …

「一緒にバンドやってくれませんか?」

「自分、なんでバンドやらんの? ワシ、自分の歌、ごっつええ、思うで」 人生を変え …

「あたり前」を極める

「自分があたり前にやっていることで、 他の人が絶対にマネできないことに注目しなさ …

「慣れる」と「油断しない」の塩梅がムツカシイ。

今日、久しぶりにひとりで買い物に出かけました。 買い物に出たのは文具なのですが、 …

「おまえ、リズム悪いな」と言われたら、やるべき3つのこと。

「おまえ、リズム悪いな」 何気なく、 しかし、わりとよく言われるこのことば。 楽 …

カラダという楽器 〜 Singer’s Tips #9 〜

ピアノでも、ギターでも、 「さぁ、弾こう」という前に、 弾き手が必ずするのがチュ …

国語力、お願いします!

歌を教える仕事をしていて、 最もフラストレーションを感じるのは、 生徒がなかなか …

わかりやすくうまい人 vs. さりげなくうまい人

「歌のうまい人」には2種類います。 ビヨンセやホイットニーやアギレラみたいに、 …

「誉めて!かまって!」症候群

誰かにかまわれたい、 誉められたい、 認められたいという欲求は、 人間である以上 …