「でもしかコーラス」と「プレイヤー至上主義」
歌の学校に通っているとき、
ある子のトラ(エクストラ=代役)を頼まれたことがきっかけで、
コーラスのお仕事を始めることになってしまった私。
それまで音楽と言えば洋楽一辺倒。
J-Popの世界など、まったく興味がなかったし、
正直「歌謡曲」は、よいも悪いも、
さっぱりわからない。
初仕事でご一緒させていただいたタレントさんに至っては、
顔も名前もろくに知らない状態で、
リハーサルに挑みました。
「だって、突然頼まれたから」
「何から手をつけたらいいか、わからなかったし」
「教えてくれる人は誰もいなかったし・・・・」
今の私が、そんな言い訳をしながら、
中途半端な気持ちで仕事に臨んでいる人を見たら、
必ず、こんなことばで一喝するでしょう。
「本気でできないことは、
自分のためにも、他人のためにもならないんだから、
やめなさいっ!」
それでも、なんでも、
プロとアマチュアの境界線が曖昧な音楽の世界で、
誰もが「プロのお仕事」と認める、
紛れもない「メジャーの仕事」をやりたかった。
ホール規模のコンサートや、
全国ツアー、テレビ出演という、
見たこともない、
華やかな世界に身を置きたかった。
そして、なにより、
人並みより低い時給で、
うだつの上がらないバイト生活をしていた私にとって、
数時間ステージに立つだけでもらえるうん万円、
というギャランティは、夢のようで。
おまけに、アゴアシ枕と至れり尽くせりで、
日本全国を旅できるなんて・・・。
これって、
なんの知識も経験もないのに、
時給と待遇につられて、
テキトーに専門職の面接受けたら、受かっちゃった!
みたいな感じです。
ナメるのもたいがいにしろっ!という話です。
コーラスのお仕事というのは、
華やかで楽しそうに見えるけれど、
それはそれはハードで、
さまざまなスキルや才能を試される、
紛れもなく「スペシャリスト」のお仕事です。
読譜力や基本的な歌のスキルは、
基礎の基礎に過ぎません。
ニュアンス、グルーヴ、ことばの置き方、音色・・・
極めれば極めるほど、
「ハモる」ことは奥深い。
大きなステージに立つとなれば、
チームでステップをそろえるだけでなく、
振り付けがつくこともあります。
踊りの素養はもちろん、
平均以上のルックスも要求されます。
音楽性にあった見せ方をくふうするチカラも必要です。
無理難題の多い音楽業界で、
さまざまな要求に柔軟にこたえる、
ハード・スケジュールをしなやかにこなしながら、
体調と声を完璧に管理する、
バランスのよい人間関係を維持し、
華やかなステージを後方で支え続けるなど、
メンタルの強さと適正も試されます。
コーラスのプロフェッショナルと言われる方たちは、
いやはや、ほんっとにすごいんです。
なんの準備もないままで、
「でもしか」で業界に飛び込んでしまった、
「ヴォーカリストくずれ」の私が、
ボッコボコにされたのは、
もう必然と言えば必然です。
穴があったら、入って土かぶりたい。
戻れるものなら戻って、自分をボッコボコにしたい。
思い出すほどに、恥ずかしい経験です。
さて。
そんなプロフェッショナルなお仕事、
“サポートコーラス”も、
1980年代当時は、
正当に評価されていない現場が多々ありました。
セクハラにあって泣いている人もいたし、
それが黙殺される現場の雰囲気もありました。
酷い噂も、ずいぶん聞きました。
コーラスというお仕事を「飾りもの」的に考えたり、
あからさまに下に見ている人も、確実にいました。
「コーラスなんか誰でもできる」と、
本気で思っていた人もいたようです。
プレイヤーと比べ、
ギャランティ面でも冷遇されている現場が多く、
納得できないからと、交渉しても、
結局却下されたという話をよく耳にしました。
女性中心のお仕事ですから、
まぁ、男尊女卑のなごりだったのでしょう。
すべて、私の経験的所感です。
サポートのお仕事から離れて、早20数年。
セクハラ、パワハラ問題が顕在化して、
女性の権利もずいぶん守られるようになりましたし、
ネットの存在のおかげで、
うかつなことはできない時代にもなりました。
昭和の芸能界的空気感を引きずる人たちはもう、
引退しちゃってるかもしれません。
お互いがまじめに、一所懸命、
プロフェッショナルなお仕事を提供する。
リスペクトを持って、お互いの仕事を評価する。
よい現場って、そんなプロフェッショナル集団がつくる。
そんなよき現場をつくれるパフォーマーで、
スタッフでありたいと思います。
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