ことばってムツカシイ。
「うっそぉ〜」というリアクションが流行ったのは、
80年代だったでしょうか。
「うっそぉ〜」「信じらんな〜い」
何かに驚いたとき、ショックを受けたとき、
友人同士で当たり前のように使っていた、このリアクションで、
実は、人を傷つけてしまったことがあります。
とあるライブハウスの楽屋で、
アフリカ系アメリカ人の若い男性と一緒になりました。
名前を仮にジェイとさせてください。
日本人ばかりの楽屋でぽつんとひとり座っていたジェイ。
当時の私は、
まだたいした英語もしゃべれませんでしたが、
ジェイがなんとなく淋しそうに見えて、
一所懸命話しかけました。
話してみれば、ジェイは実に気さくで愉快な人です。
会話もどんどん盛り上がり、
やがてジェイの生まれ故郷の話になりました。
「ボクの故郷は、すごく危険な街だ。
ボクのおとうさんもミュージシャンだったんだけど、
お金を持っている黒人が許せなかったんだろうね。
ボクの目の前で、後ろから撃たれて殺されたんだ。」
なんとも衝撃的な話でした。
許せない、酷い話です。
心を大きく動かされた時ほど、
ことばの壁を感じるときはありません。
溢れてくる想いに、
脳の翻訳するスピードが追いつかないのです。
ただでさえボキャブラリーも乏しかった頃です。
取り出すことばが見つかりません。
動揺した私は、とにもかくにも、
心に浮かんだことばを、
必死に英語に翻訳しました。
「うっそぉ」「信じられないっ」
そのたびにジェイは
「ホントの話さ」。
「日本人には理解できないかもしれないけど、
アメリカってそういう国さ」。
と、必死な顔で言います。
酷いわ。
そんなこと、許されないことよ。
私たち日本人には、理解を超えたことだわ。
・・・そんな思いを伝えたくて、私は拙い英語で、
たぶん、こんなことを言ったと思います。
「日本は平和な国でしょ?
だから、そういう話って、ホントに信じらんないわ。」
ジェイの表情が変わりました。
「なんでボクの話が信じられないんだっ!
ボクの父の死の話をしているんだ。
ウソなんてつくわけないだろ?」
ジェイは不愉快きわまりないという顔で、
そう言うなり楽屋を飛び出して行ってしまいました。
なぜ彼が急に不機嫌になったのか、
訳がわかりませんでした。
心が触れあう時間だったはずなのに。
私は心から彼の身の上に起きたことに、
同情したし、怒りを感じたのに・・・。
しばらくして、英国人の友だちに、その時のことを話すと、
こんな風に言われました。
「『信じられない』ということばを
“I can’t believe it!”
と直訳してはダメなんだ」。
「同じ意味でも、
“incredible”、”unbelievable”と言えば、
気持ちは伝わったはずだよ」。
「『うそでしょ』という気持ちを表すのに、
“lie”という単語を使うのもダメだね。
同じ気持ちを表すことばなら、
“No Way”(まさか)とか、
“Really?”(ほんとに?)だったら誤解されなかったよね」。
他言語でのコミュニケーションの難しさを痛感した出来事でした。
それっきり、ジェイに会うことはありませんでした。
きっと私を「人の話をまともに聞けない馬鹿女」と思ったんだろうな。
ことば選びの難しさは、
外国語だけでなく、日本語でも同じです。
ことばの意味づけは受け手が決める。
ことばの持つ意味は人の数だけあるのです。
誤解されないようにことばを選ぶ。
相手が使うことばの真意に思いを馳せる。
自分の発したことばがきちんと伝わっているか、
折に触れ確認する。
コミュニケーションは、本当にムツカシイ、
深いものですね。
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