このレースに勝ちたいか。 そもそもレースに出たいのか。
以前、
「最近の運動会では徒競走の順位がわからないようにしていて、
昔のように着順のついた旗の下に座ったりしないんだって。」
という話を聞いて、ひっくり返りそうになったことがあります。
私は本当に足が遅くて、徒競走が大嫌いでした。
一度でいいから、旗の下に座りたい・・・
来世まで叶いそうもない夢を、今も持っています。
当然テープも切ったことはありません。
胸を張って、先頭でテープを切る同級生たちの誇らしげな顔。
3位までに入ることのできたものだけが、
お手伝いの上級生に手を引かれて座ることのできる特等席。
競技の最後に手渡される「記念品」という箱の中には、
一体どんな素敵なものが詰まっているんだろうと、
運動会のたび、体育祭のたびに、指をくわえて見ていました。
それらの光景、気持ちが、今でも鮮明に蘇ってくるのですから、
いかに、足の遅いことが悔しかったか、
徒競走で一回でも勝ちたかったか、わかるというものです。
実際、高校最後の体育祭で、
お弁当を紙袋にいっぱい作ってきてくれた後輩たちが、
ずらりと並んで私の徒競走を見ているという恐ろしい場面がありました。
惨敗を免れるための、1ヶ月にわたるスクワットもむなしく、
(今から思えばスクワットなんかじゃなくって、走り込めって話なのですが)
残念な結果に終わった後の、
後輩たちの気まずそうな顔は、今も忘れられません。
しかしです。
1番になれなくて、
いや、3位以内に入れなくて悔しいと思ったことはあっても、
順位がつかなければいいと思ったことは一度もありません。
颯爽と走る「1位」の子たちを見ているのが好きでした。
どんなにがんばっても、
自分が速く走れるようになるとは、とうてい思えない、
そもそも、がんばる気にもなれない。
私にとって、徒競走に対する執着は、そのレベルのものだったわけです。
さて。
音楽業界を志すようになってから現在に至るまで、
望むと望まざるに関わらず、
知らぬ間にさまざまなトラックの上に乗せられ、
あきれるほどのレースを走らされてきました。
勝敗はタイム、などというわかりやすい基準ではありません。
ありとあらゆる種類の人の主観によって決まります。
歌のテクニックや音域の広さ、声の大きさ、などは、
本当にわかりやすい基準の方で、
声の魅力、キャラクター、表現力、音楽的理解力、
アピール力、エネルギー量、
基準になる誰かと声が合うか、ハモるか、
など、純粋に「歌」に関することは言うにおよばず、
年齢、
ルックス、
ダンススキル、
身にまとう雰囲気、
コミュニケーションスキル、
セクシーさ、
果ては、集客力やアピール力、クライアントの好みに合うか?
・・・などなど、
え?そこ?みたいな基準で、
旗の下に座らせてもらえないことは、日常茶飯事です。
ゲームのルールは、
ファンやプロデューサーやディレクターやクライアントや・・・
そういう、いろいろな価値観の人たちが決めるのです。
このレースに勝ちたいか。
そもそもレースに出たいのか。
それとも、人のルールでゲームをするのはごめんなのか。
みんなで手をつないでゴールできれば楽しいのか。
どんな考え方も、すべて正しい。
答えは自分が決めればよいでしょう。
経験的に言えることは、
たくさんの、たくさんのレースを走って、
全然勝てなくて、
アホほど悔しくて、
それでも、レースに出続けて、
工夫して、努力して、しがみついて、
やっぱりレースに出続けていると、
あるとき、ふと、自分の勝ちパターンに気づけるときがあるということ。
あれ?なんか、勝てる。
このレースは、絶対勝てる。
出るべきレースがわかる。
戦い方がわかる。
レースが終わる前から、
自分の勝てることが手に取るようにわかる。
そうなれば、北島康介です。(ちょっと古いか)
負ける気がしない。
レースが楽しくさえ感じられるはずです。
結局、そこまでの執着を、執念を、持てるかどうか。
それこそが、「才能」と呼ばれるものです。
執着が消せないのは、自分に「才能」があるから。
勝ちパターンが見えるその日まで、
そう信じて走り続けられるかどうか。
勘違いで結構です。
妄想で上等です。
まだまだ、当分、走り続けます。
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