カラダを楽器に「最適化」する。
「タマゴが手の中にあるように、
そーっと鍵盤の上に指を乗せるのよ。」
中学になってからはじめたピアノのお稽古。
最も苦労したことのひとつが、この「タマゴ」でした。
鍵盤を押そうと指にチカラを入れると、
タマゴは無残にもべちゃりと潰れてしまう。
鍵盤を叩こうとする指以外はすべて、
ぴーんと伸びて、一本一本、反り返る。
ピアノを習うことが小学校4年生からの夢だった私は、
通学電車の中でも、授業中でも、
この「タマゴ」を保ったまま、
指を一本ずつ独立させて、
上げ下げする練習をし続けました。
やがて、ギターを手にした時、
このときに鍛えまくった指の強さが幸いし、
太めの弦を張っても、その一本一本を、
しっかりと押さえることができました。
しかしです。
「バレーコード」はいけません。
なんと言っても「タマゴ」に最適化された指の筋肉には、
「指を平たくして力を均等にかける」という芸当が、
いやー、難しい。
いわゆる「Fの壁」にまんまとぶち当たりました。
人差し指を平にしたまま、
他の指が独立して動くようにトレーニングする。
しかも、私の持っていたアコギは結構な弦高で、
痛いのなんの。
それでも、なんとか、
ハンドグリップで握力を鍛えたり、
ギターに指を縛り付けたりと、
「大リーグボール養成ギブスかっ!?」
と突っ込みたくなるようなスポ根的がんばりのおかげで、
Fをクリアし、こっそりとギター女子を続けていた私。
あるとき「またバンドでギターを弾きたい欲」が再燃し、
ギターリストの友だちに押さえ方の指南を受けることになりました。
まぁ、難しいコードばっかりで、
へこたれそうだった私に、彼は、優しく(?)言いました。
「6弦は親指で押さえればいいんだよ。」
はい?
もうね。なに言ってんの、あんた。でした。
親指を折りたたんで、内側に向けて力をかけるなんて。
しかも、他の指は普通に押さえている状態で、です。
しかも、ギターのストラップは下げろ、とおっしゃる。
ちなみに、彼の手は私の手の軽く1.5倍。
しかも、当時でもギター歴20年以上あったでしょうか?
「そんなこと、ギターに最適化された手だからこそ、
簡単にできるんですよ」とやさぐれた次第です。
数年前も、こんなことがありました。
今度はジェフ夫さんにギターを習っていたら、
彼は私が律儀に弦を一本一本押さえてハイコードを弾くのが、
ぎこちなくて見ていられないようす。
「それ、1本の指で弾けるでしょ?」
とくるわけです。
はい?と弾いてみてもらうと、
薬指を器用に指板に平らに密着させて、
弦を3本押さえる。
で、あまった指でミュートする、とか言うわけです。
薬指が、反るんです。
その状態で均等に力が入る。
タマゴ、崩壊です。
ルーキー時代、ひょろひょろだった野球選手が
1年、2年とプロの世界でもまれるうちに、
どんどんカラダが育っていくのと同じように、
毎日一所懸命取り組む自分の専門楽器にそうように、
人のカラダも「最適化」するのですね。
持って生まれた身体条件よりも、
慣れ。そして鍛錬。
何ごとも上達のためには、
カラダを少しずつ最適化するしかなさそうです。
◆【ヴォイトレマガジン『声出していこうっ!me.』】
ほぼ週1回、ブログ記事から、1歩進んだディープな話題をお届けしているメルマガです。無料登録はこちらから。バックナンバーも読めます。
関連記事
-
-
現実が自分にフィットしないときに、 なぜ、自分を合わせに行こうとするのか?
生涯を共にできるようなメンバーになかなか巡り会えず、 日々バンドの人間関係に悩ん …
-
-
心のブレーキをぶっ壊せ。
初めてシーケンサーを手に入れて、 ひとりで音楽をつくりはじめたのは、 22〜23 …
-
-
未来の自分を信じる~Singer’s Tips#29~
自分がオーディエンスだったら、 どんなシンガーを見たいか? どんな歌を聴きたいか …
-
-
「まったくおなじ音」は2度と出せない?~SInger’s Tips #19~
長年歌をやっていて、 もっとも難しいと感じることにひとつに、 「おなじ音をおなじ …
-
-
歌詞の理解を深める~Singer’s Tips #12~
どんなことばで語られようと、 心ない政治家の原稿丸読みの演説や、 稚拙な役者のセ …
-
-
値切らないっ!
アジア圏のとある国へ旅行に出かけた時のことです。 あれはどこの国だったか。。 「 …
-
-
理屈は後付け。
先日の『イケてないロック・ヴォーカルは、なぜイケてないのか?』、 たくさんの方に …
-
-
話を聞かない生徒 話をさせない先生
「これは、こんな風に歌うのよ」と、 お手本を聴かせるためにこちらが歌い出した瞬間 …
-
-
「東京って、やっぱりすごいんですか?」
週1回ほど京都の音楽学校で教えていた頃。 よく顔を見るギター科の学生と エレベー …
-
-
「他者基準」で自分をジャッジしない。
才能あふれる若者たちを教える機会に恵まれています。 レッスンのたびにワクワクした …
- PREV
- ベーシストって、すごいんだ。
- NEXT
- 鳴らない楽器と鳴らせないプレイヤー