大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「美しき手順」を持つものに、運命の女神は微笑むのだ。

   

「はじめて日本に行って、
お店でちょっとしたおみやげを買ったとき、
本当にびっくりしたの。

私が買った小さなおみやげを
薄い紙で丁寧にくるんで、
そっと箱に入れて、
それを綺麗な包装紙で完璧な形で包んで、
そこに紐をかけて、シールを貼って、
素敵な袋に入れてくれて、
おまけに、渡すとき用だって、
もう1枚袋を入れてくれたの。

まったく特別なことをしているようすもなく、
最初から最後まで、
すべてが完璧な作法で進んで・・・。
日本の文化って本当に素晴らしいと感じたわ。」

私の英語の先生をしてくれている、
イギリス人のことばです。

日本人の私たちにとっては、
それが特別なことだと気づくことさえないくらい、
おつかえものを扱うお店では、
当たり前のように目にする光景です。

「日本人は過剰包装」という厳しいご意見は、
今日のところはちょっと置いておいて、
そんなニッポンの心を、振り返ってみましょう。

 

私は、祖母が「いただきもののクッキーの缶」を開けるときのようすを、
今でもたびたび思い出します。

包装紙にかけられた紐をくるくるっと格好良く丸めて、
ほどけないように結ぶ。
貼ってあるセロテープを丁寧にはがして、
包装紙をはがし、それをまた綺麗にたたむ。

箱から缶を取り出すと、
まずはその箱を、また丁寧にたたむ。

そして、クッキーの缶のふたが開いてしまわないように、
ぐるりと貼り付けてあるセロテープを、
これまた丁寧にはがすと、
そのセロテープを大事そうにテーブルの縁に貼り付ける。

そうして祖母は、やっと缶のふたをそ〜っと開くと、
数枚クッキーを取り出して、お皿にならべ、
またそ〜っと缶のふたを閉じて、
先ほどのセロテープをテーブルの縁からゆっくりはがし、
元の通りに、缶のふたを閉じるのでした。

こども心に、
その手順の丁寧さに、
感銘を受けたものです。

 

ニューヨーク時代。
友人のバースデイ・プレゼントに本を買いました。
こだわって包装紙を手に入れ、
丁寧にラッピングし、リボンをかけて、
そのプレゼントを彼に手渡ししました。

そうしたら、その彼ときたら、
リボンにも、包装紙にも、目もくれず、
目の前で、バリバリバリッとその包装紙を破いて、
ぐちゃぐちゃっと丸めたかと思うと、
中の本をつかみ出し、
おもむろにパラパラパラッとカジュアルに本のページをめくったのです。

一説には、
「欧米では、プレゼントをもらったら、
目の前でラッピングを破くのがエチケットだ」
と言われてますが、

別の友人にそのことをたずねたら、
「え?だって、包装紙はただの包装紙でしょ?
大事なのは中身だから。」
と、きょとんとされました。

私がプレゼントをもらったとき、
そのリボンをはずして、ゆっくり束ね、
包装紙をはずして丁寧にたたみ・・・としているのを見て、
「日本人は素敵だ」という外国人が何人もいるくらいですから、

包装紙のベリベリ、ぐちゃぐちゃ、は、
エチケットやマナーではなく、
単なる、習慣でしょう。

 

どちらが正しい、というのではありません。

ただ、日本の作法は、
「あぁ、美しいな」と思うわけです。

そして、日本の「当たり前」の中で育った私たちは、
本当にラッキーだよな、と心から感じるのです。

コロナ対応にさまざまなくふうをこらしながら、
営業を再開したお店がたくさんあります。

想像力と知恵を絞っての、
その細やかな心配りに出会う度、
感動と感銘を覚えます。

少しずつ、みんなが、
社会のこんな状況に慣れてしまっても、
体に染みつけた「日本の作法」、
「丁寧な手順」は失われることはないはず。

迷ったら心に聞く。

美しくあること。
丁寧であること。
きちんとすること。

いやー。自分で書いていても、耳が痛くなることばばかりですが、
結局、最後は、そんな「美しき手順」を持っているものが、
運命に選ばれて行くのだよなとも感じる今日この頃。

このブログ書き終わったら、お片付けしよっと。
夜中だけど・・・。

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