大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「本番に弱い自分」を払拭する。

   

さんざんレッスンして、
万全の体制で現場に乗り込んだのに、
「MISUMIさぁ〜ん・・・ダメでしたぁ〜」と、
号泣しながら電話をかけてくる子、
レッスンで泣きながら報告する子。。。

私としてもそれなりの想いを込めて送り出していますから、
そんなアーティストたちの話を聞くたびに胸を締め付けられます。
役に立てなかった自分に憤りを覚えることもあります。

お仕事ですから、結果がすべて。
レッスンやリハーサルでどんなにうまく行っても、
本番でできなければ、なんの意味もありません。

たった1回のパフォーマンスが、
最初で最後になるかもしれない。
その1回で、将来を決めるような
ジャッジが下されてしまうかもしれない。

書いているだけでも、
胃の痛くなるお話です。

しかし、本当に大事なことは、
起きてしまったことを悔やむことではなく、

なぜ、起きてしまったのかという原因を突き止め、
どうすれば起こさずにすむのかという学びに変えること。
そして、その学びを、次に確実に生かすこと。

というわけで、
ひとしきり、慰めてからは、
状況のヒアリングをはじめます。

すると彼らは、異口同音にこんなことを言うのです。

「いつもどおりに歌ってたつもりなんですけど、声が全然出なくて」
「緊張してないと思ってたんですけど、自分の声が遠く聞こえて、コントロールできなくて」
「リラックスしようとしても、がなっちゃって」

ふーん。それで?

だから、結果が出せなかったのは、
「緊張したから」
「かたくなったから」
「力んだから」

だから?

「だから、声が出なくって」
「自分の声がちゃんと聞こえなくって」
「だから、なおさら力んじゃって」
「ピッチフラットして」
「高い声も全然届かなくって」・・・

で?それ、どうして?

「だから・・・あたしが(ボクが)ダメだから・・・・」

 

ちょっと待ったぁぁあああ!!

それ、全然原因解明になってないでしょ?

 

そもそも、

硬くなったとか、声が出なくなったとかいうのも結果。
緊張したからも、やっぱり結果。
自分がダメだから、ってのも、
「あんなに練習したのにダメだった自分」に対して抱いた感情であるから、
これも結果。

うまくいかなかったという結果をどんなにほじくり返しても、
自分がどんなにダメでツイてないかっていう感情論を展開しても、
どこにもいけない。
1ミリも前進しません。

多くのアーティストが、
こんな負のスパイラルを繰り返して、
自信を失い、疲弊してしまう。

これでは、本番に対する苦手意識は
いつまで経っても克服できません。

 

もちろん、人間だから、うまくいかなければ落ち込みます。
自己嫌悪や自己憐憫や自信喪失に陥ります。
だから、1度は思いっきり感情に身をまかせて、
大泣きしたり、やさぐれたり、なんなら暴れたりすればよろしい。

しかし、次へ進むためには、論理思考です。

これまで、数々のアーティストたちと向かい合ってきて、
さんざん準備したにもかかわらず、
本番で力を出し切れなかった原因として
一番多かったのは、モニターの環境でした。

つまり、声が出ていないんじゃない。
モニターから、
ちゃんと自分に聞きとりやすい声が返ってきていないのです。

だから聞こえない。
聞こえないから、出せてないんだと思う。
あ、緊張しているのかも、と感じ出す。
力む。
コントロールが乱れる。
なおさら声が出なくなる・・・。

こんなスパイラルです。

リハから付き添ってくれる、
専門のエンジニアさんがいるような恵まれた人ばかりではありません。
イアモニがつかえたり、
リハ時間をたっぷり取れるような環境で歌っている子はほんの一握り。

 

もちろん、自分の技術不足を反省する気持ちを忘れてはいけませんが、
ここで、一瞬立ち止まって、
モニターチェックやエンジニアさんとのコミュニケーションに時間をつかってみるだけで、
びっくりするくらい歌いやすくなるものです。

「本番に弱い自分」というイメージを払拭するためにも、
とにもかくにも論理思考、そして、モニターチェック。

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