大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

バンド仲間という特殊な人間関係。

   

バンド仲間というのは実に特殊な人間関係です。

ステージに立ってパフォーマンスをする時、
プレイヤーは究極の集中状態。

パートや立ち位置にもよるでしょうが、
目に見えていなくても、
お互いの存在を皮膚で、
いや、毛穴レベルで感じあっているようなところがある。

私はヴォーカリストですから、
マイクの前に立っているときは、メンバーの姿は見えません。
それでも、長年一緒にやっているメンバーなら、
目をつぶって後ろ向きに倒れ込めるくらいの、
安心感を常に感じています。

その安心感を得られない仲間とは、
もう演奏したくないと思うくらいです。

よく「家族みたいなもの」という表現をする人がいますが、

音楽を共に奏でる、あの刹那、
激しい感情をぶつけ合い、
あふれるほどの情熱を共有する仲間たちとは、
ある意味、どんな関係性をも越える、
強烈な結びつきを感じるのです。

旅に出れば、
日頃それぞれが演じている、さまざまな役どころから解放され、
日常ではけして見せない顔を見せ合うこともあります。
自由奔放に、徹底的に楽しんで、
いろんな秘密を共有することもあります。

お互いに、何でも話すけど、
実は、お互いのことを何にも知らない。

仕事仲間でも、同僚でもないし、
同級生や、幼なじみとも違う。
恋人同士というには、あまりにも雑。

ステージから降り、旅から戻れば、
すべての魔法が解けてしまったかのように、
しばらくはお互いのことを思い出すことさえなかったりするし、

バンドを一緒にやらなくなれば、
ウソみたいに関係性が消滅してしまうのも、
特長のひとつです。

喧嘩別れしたわけじゃなくても、
おそらく、もう一生会わないだろうな、
と感じる人も、たくさんいます。

そう言う意味では、いわゆる「友だち」というのとも違う。
実に特殊な関係なのです。

だから、バンド仲間から、
本当の友だちにまでなる人は、人生の宝物。
特別で、格別な、強い絆を感じさせてくれる、
大切な人たちでもあります。

人と出会うのが仕事とも言うべきミュージシャン家業ですが、
バンドを一緒にやろうと思えるほどの仲間に出会える確率は、
けして高くありません。
まして、その関係性が10年、20年と続く人と出会うのは、
0.1%? いやいや、もっと少ない。

 

若かりし頃は、そういう出会いの大切さに、
なかなか気づけないんですね。

世界は広い。
ミュージシャンは星の数ほどいる。
もっとうまいやつ、
もっとすごいやつ、
もっとカッコいいやつ。。。
そうやって、次から次へとバンドを渡り歩いてしまったりする。

自分が、特別な出会いに恵まれてきたことに気づき、
仲間というものの大切さを実感できる頃には、
大切な仲間は、ひとり、またひとりと、
いなくなってゆきます。

特別な仲間たちとの限られた音楽時間。
一瞬一瞬にすべてをかけて、
紡ぎ続けるのも、
神さまに選ばれてきた私たちの使命。

足止め喰らって腐ってないで、
目の前の壁をぶっ壊してでも、前に進まなくちゃ。

やっぱね。Show must go on です。

 - B面Blog, バンド! , ,

  関連記事

「R&Bって、お洒落やねん」

連日ワークショップの仕込みをしながら、 遠い昔の友との会話を心の中で無限リピート …

カセットテープ、どうしてます?

データ断捨離もほぼ終了したところで、 「眠っているデモ音源をライブラリーに登録し …

「声が低けりゃ威厳を感じるのか問題」を考える。

ヴォーカリストの悩みで一番多いのは、 「高い声が出ない」。 一方で、ビジネスパー …

ギターソロが邪魔くさいぃ〜!?

「最近の子はギターソロになると、曲を飛ばすんですよ」 え?なんですか、それ? と …

同じ音を、同じ音色、同じ音圧で、 100発100中で出す

人間のカラダは「まったく同じ音」を2回以上出すことはできない楽器。 そんなことを …

「自分らしさ」ってなんだ?

らしくあれ。 女子校時代、嫌と言うほど聞かされた言葉です。 本校の生徒らしく、 …

「いつものあれ」でお願いしますっ!

ずいぶん前のこと。 たまたまつけたテレビに、 ホイットニー・ヒューストンが出てい …

酒とタバコと断崖絶壁

学生時代からバンドをやって、 学祭やライブなどで歌ったり、演奏したりしていた、 …

アイディアは、ポンと降ってくるギフト。

クリエイティブなアイディアって、 頭で考えているうちは絶対に出てこないもの。 作 …

「所詮同じ人間」という前提に立つ。

誰かにできて、自分にできないことを、 生まれや育ちの違いのせいにしてしまうのは、 …