バンド仲間という特殊な人間関係。
バンド仲間というのは実に特殊な人間関係です。
ステージに立ってパフォーマンスをする時、
プレイヤーは究極の集中状態。
パートや立ち位置にもよるでしょうが、
目に見えていなくても、
お互いの存在を皮膚で、
いや、毛穴レベルで感じあっているようなところがある。
私はヴォーカリストですから、
マイクの前に立っているときは、メンバーの姿は見えません。
それでも、長年一緒にやっているメンバーなら、
目をつぶって後ろ向きに倒れ込めるくらいの、
安心感を常に感じています。
その安心感を得られない仲間とは、
もう演奏したくないと思うくらいです。
よく「家族みたいなもの」という表現をする人がいますが、
音楽を共に奏でる、あの刹那、
激しい感情をぶつけ合い、
あふれるほどの情熱を共有する仲間たちとは、
ある意味、どんな関係性をも越える、
強烈な結びつきを感じるのです。
旅に出れば、
日頃それぞれが演じている、さまざまな役どころから解放され、
日常ではけして見せない顔を見せ合うこともあります。
自由奔放に、徹底的に楽しんで、
いろんな秘密を共有することもあります。
お互いに、何でも話すけど、
実は、お互いのことを何にも知らない。
仕事仲間でも、同僚でもないし、
同級生や、幼なじみとも違う。
恋人同士というには、あまりにも雑。
ステージから降り、旅から戻れば、
すべての魔法が解けてしまったかのように、
しばらくはお互いのことを思い出すことさえなかったりするし、
バンドを一緒にやらなくなれば、
ウソみたいに関係性が消滅してしまうのも、
特長のひとつです。
喧嘩別れしたわけじゃなくても、
おそらく、もう一生会わないだろうな、
と感じる人も、たくさんいます。
そう言う意味では、いわゆる「友だち」というのとも違う。
実に特殊な関係なのです。
だから、バンド仲間から、
本当の友だちにまでなる人は、人生の宝物。
特別で、格別な、強い絆を感じさせてくれる、
大切な人たちでもあります。
人と出会うのが仕事とも言うべきミュージシャン家業ですが、
バンドを一緒にやろうと思えるほどの仲間に出会える確率は、
けして高くありません。
まして、その関係性が10年、20年と続く人と出会うのは、
0.1%? いやいや、もっと少ない。
若かりし頃は、そういう出会いの大切さに、
なかなか気づけないんですね。
世界は広い。
ミュージシャンは星の数ほどいる。
もっとうまいやつ、
もっとすごいやつ、
もっとカッコいいやつ。。。
そうやって、次から次へとバンドを渡り歩いてしまったりする。
自分が、特別な出会いに恵まれてきたことに気づき、
仲間というものの大切さを実感できる頃には、
大切な仲間は、ひとり、またひとりと、
いなくなってゆきます。
特別な仲間たちとの限られた音楽時間。
一瞬一瞬にすべてをかけて、
紡ぎ続けるのも、
神さまに選ばれてきた私たちの使命。
足止め喰らって腐ってないで、
目の前の壁をぶっ壊してでも、前に進まなくちゃ。
やっぱね。Show must go on です。

関連記事
-
-
「真面目がダメならどうすればいいの?」
真面目にやれ。 一所懸命にやれ。 丁寧にやれ。 こどもの頃から、 よく言えば、閃 …
-
-
「対バン」の流儀
「対バン」。 学生時代からあまりに当たり前につかっていることばなので、 この言葉 …
-
-
酒とタバコと断崖絶壁
学生時代からバンドをやって、 学祭やライブなどで歌ったり、演奏したりしていた、 …
-
-
「自分らしさ」を見出す3つの方法。
自分らしさや、自分の「売り」を探すとき、 頭の中で、ああでもない、こうでもないと …
-
-
みんな勝手なこといいやがる。
今でこそ、プロアマ、セミプロ問わず、 「アーティスト」なんて、 定義のふわっとし …
-
-
絶対音感、いりますか?
つい先日、某テレビ局の方から不思議なお仕事の依頼があり、 お話を伺いました。 内 …
-
-
人は、人を「育てる」ことはできない。
レッスンを担当しているシンガーたちが、 ぐんぐん成長していく姿を見るのは、誰だっ …
-
-
リズムが悪いと言われたら真っ先にすること。~Singer’s Tips#10~
「リズムが悪い」と言われた時、 真っ先に点検すべきは、 点=ビートを捕らえられて …
-
-
カツゼツッ!!!
普段はほとんど興味のないテレビですが、 さすがに昨今、 ニュースくらいは見ておか …
-
-
ぶっ壊すことを恐れない。
CMの作詞のお仕事を依頼されたときのことです。 某大企業のCMの歌詞を書かせてい …
- PREV
- まず、自分の出音(でおと)をちゃんとせい。
- NEXT
- レコーディングでうまく歌えない原因と対処法。
