大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

レコーディングでうまく歌えない原因と対処法。

   

先日メルマガのお便りフォームに、下記のような質問をいただきました。
(一部プライバシーに関わるところはカットしています。)


いつも楽しくメルマガを拝読しております。
2019年のMTLダイジェスト版に参加させていただいたヒラコと申します。

ダイジェスト版に参加させていただいてから私は、「歌う以前の問題かもしれない」と、
正しい姿勢のためにヨガやウォーキングレッスンに行ってみたり、リップロールをひたすら続けたり、
最近ではMISUMI先生のとっておきの動画たちを拝見させていただいて、コツコツとトレーニングをした結果、
少しづつですが「自分が聴いて心地良い声で歌えるようになってきたなぁ」と思うようになってきていました。

そんな折見つけた、とあるオーディションに応募し、
本日、その選考時に使うボーカル音源のレコーディングをしてきました。
ごく簡易的なブースではありましたが、生まれてはじめてのレコーディングです。

結果は、大撃沈でした。
滑舌やリズムに指示が入って、それを意識すると力んでしまい、仕上がった音源は、喉がしまったり仮声帯が働いてガラガラしたり、抑揚が極端だったりと、正直聞くに堪えないものでした。

一番の原因は実力不足ですが「もしかしたらレコーディングはそこまで力いっぱい歌わなくても良いものだったのか?」「モニター環境を自分なりに改善できれば、良いパフォーマンスができたのか?」と、これまでのトレーニングの成果を実感していただけに、もうちょっと良い歌が歌えたのではないかと、打ちのめされて帰ってきました。

あの音源では、仕事をもらえそうにないので「レコーディング体験実習」だったと割り切ることにしましたが、このまま終わりたくはないので、この件について、いずれメルマガなどの題材にしていただけるとありがたいです。

いつかまた、MISUMI先生に直接お会いできたらいいなと思っています。乱文失礼致しました。


 

ヒラコさん、お便りありがとうございました。
質問を読みながら、思わず、「わかる!」と共感してしまいました。

私もかつて「キミはライブでは女王だけど、レコーディングは全然ダメだね」と言い放たれた経験があります。

ヘッドフォンをかぶったとたんに、力加減もピッチも表現も、
どうしたらいいかわからなくなる、というのは、
ヴォーカリストあるあるです。

実際、そこそこ実力のあるヴォーカリストでも、
レコーディングしたら、ありゃりゃというケースは本当によくあるんです。

 

その原因と対処法は主に3つ。

 

1. ヘッドフォンで耳を塞がれることで、自分のカラダのフィードバック感覚にブレが生じる。

人間は自分の発している声を自分の耳で聞き、
その情報のフィードバックでピッチや声の音色に微調整を加えていきます。
ヘッドフォンから流れる自分の声は、電気的に処理されたものですから、
日頃、空気を伝って聞こえる自分の声や、骨伝導で聞いている自分の声とは聞こえ方が違います。
その違和感で、感覚が狂ってしまうことが多々あるのです。

お勧めなのは片耳を半分くらい外した状態で歌うこと。
いつもの自分の声が聞こえて、感覚を見失いにくいはずです。


2. モニターバランスが自分にとって適正でない。

ヘッドフォンから聞こえてくる音のバランス、
すなわちモニターバランスの正解は、ヴォーカリストの数だけあります。
エンジニアさんとの相性があわないと、このバランスが、なかなか思ったようになりません。

気を付けるべきは、自分の声の音量と、自分が頼りにする楽器がちゃんと聞こえてきているかの2点。

モニターの中で自分の声が小さすぎると、声を出しすぎてしまい、
ピッチが取れない、ダイナミクスがバラバラになる、などの事故が起こります。

前述のように、片耳を外すことで、解決することもありますが、
まずは、自分にとっての適正音量を見つけることが肝要です。

さらに、自分が日頃歌う時、頼りにしている楽器が聞こえているかというチェックも大切です。

日頃から「カラオケ」としてオケを聞くのではなく、
ひとつひとつの楽器を意識して聞く習慣をつけること。

たとえば、自分はピアノの音を頼りにピッチを取っているんだな、とか、
ドラムのハイハットがちゃんと聞こえないとリズムが走るな、とか、
そういう意識を高めることがとても大事です。

 

3. 集中できていない。

レコーディングで発揮されるべきは、集中力です。
クリックが鳴った瞬間に、ドカンと集中して、100%自分自身になりきる。
ライブやリハーサルでの何倍も、集中力が試されます。

どこにいる誰に向かって、今の自分のどんな感情を、感覚を、どう伝えたいのか。
それらが、頭ではなくて、皮膚感覚で表現できるほど集中できれば、必ずレコーディングは成功します。

 

いかがでしょうか?
すべて、ある程度の慣れを要求されることばかりですね。

簡易セットでかまわないので、自分自身で録音できる環境を整えて、繰り返し、繰り返し、
レコーディングをしてみることをお勧めします!
必ず、いい精度で歌えるようになりますよ。

がんばってください!

毎週月曜発行中!声に関するマニアックな情報やインサイドストーリーをお届けする無料メルマガ『声出していこうっ』。メルマガのお便りフォームから、ヴォーカリストの質問、疑問にお答えもしています。

 

 - B面Blog, The プロフェッショナル, 歌を極める , , , ,

  関連記事

その役の人生を生きる〜名歌手は名優である〜

父の影響で、こどもの頃から洋画が大好きで、 素晴らしい映画や、役者たちの名演技に …

「シンガー」というキャリアのゴールを描く

プロを目差すシンガーたちには、それぞれのゴールがあります。 ゴールが違えば、歩む …

「その気」にさせてくださる?

代理店のプロデューサーアシスタントをしていた時代、 ヨーロッパ向けCMのレコーデ …

「レトリバー2頭分」?

「レトリバー2頭分、離れてお並びください。」 先日、小旅行の際に立ち寄った、 ペ …

歌に必要なことは、歌の中から学びとる!

人にものを教えるときは、まず真っ先に、 その人が、ゼロ地点にいて、もっと上を目指 …

ステレオタイプ!!

買い物先でショップの店員さんに話しかけられることが苦手です。 理由はいろいろある …

音楽家として認められるために大切なこと

昨日は大学の卒業ライブでした。 終了後、旅立つ若者たちに、 「今後活動していくた …

視点を変えれば、感動は無数に生まれる。

1990年代に一世風靡したロックバンド、 オアシスのノエル・ギャラガーが、 どん …

「自分の音域を知らない」なんて、意味わからないわけです。

プロのヴォーカリストというのに、 「音域はどこからどこまで?」 という質問に答え …

「ありのまま」ということばを免罪符にしない。

作品でも、パフォーマンスでも、 作り込むより、パッションが大事とか、 ありのまま …