「R&Bって、お洒落やねん」
2019/10/30
連日ワークショップの仕込みをしながら、
遠い昔の友との会話を心の中で無限リピートしています。
あれは私が歌の学校に通い始めて半年以上経ったときのこと。
大嫌いだった課題曲たちに、
なんとか合格点をもらうことができ、
歌いたい曲を歌えるフェーズに入りました。
嬉しくなった私は、
当時好きだったクルセイダーズや、
ジェフベックグループの曲を持ち込んだと記憶しています。
ところがです。
講師の先生は、どうも私の選んだ曲がお気に召さないようす。
私の持ち込んだカセットテープを、
飛ばし飛ばし聞いたかと思うと、
ガシャリとデッキを止めて、
テープを私の方に押し戻すようにしながら、
不機嫌そうにいいました。
「こういうんじゃなくって、R&Bとか、持ってきてよ」。
ブラックミュージックを得意とするといわれていた方です。
プロフィールにもそんな風に書いてあったと記憶しています。
しかし、クラスにはハードロックを歌っている子も、
フォークソングを歌っている子もいました。
おそらく、私の何かが癇にさわったのでしょう。
人と人なので、それは仕方のないことです。
しかし、そう言われて、私は途方に暮れました。
R&Bって黒人さんの音楽のことじゃないのか?
ジェフベックグループだって、クルセイダーズだって、
ヴォーカルは黒人なのに、
一体全体何が違うって言うんだろう?
Googleどころか、インターネットもない時代です。
Youtubeも、Applemusicも、itunesもありません。
R&Bとはなんのか、調べるすべはありませんでした。
思いあまって、同期で入学した、
コイワくんに電話をかけました。
コイワくんは関西から、
バンド仲間と一緒に東京で一旗揚げようと上京し、
カッコいい音楽をやっている、
歌もうまくて、なかなかにイケメンな好青年でした。
「ねえねえコイワくん。R&Bってなあに?」
私の唐突な質問に、
コイワくんは面食らったようでした。
「へ?自分、R&B知らんの?」
今思えば、これって、「ロックってなあに?」という質問くらい、
「なに言ってんの?」な質問だったでしょう。
困ったような沈黙の後、
コイワくんはこう言いました。
「R&Bって、お洒落やねん」。
禅問答です。
これではさっぱりわかりません。
「は?なにそれ?」
「だから、アレサとかや。」
「アレサって誰?」
「え?自分、アレサ、知らんの?」
そうして、コイワくんは、
R&Bの代表的なレーベルには、
モータウンと、ハイレコードがあること、
とりあえず、アレサと、レイチャと、オーティス、
それからアンピーブルスを聞くべきであることなどを、
根気よく教えてくれました。
関西圏のミュージシャンたちにとって、
R&Bというのは、まさにソウルミュージック、
関西文化に根ざした音楽であること。
だから関西のミュージシャンたちは、
R&Bに対する愛着も、
こだわりもことさら強いのだということを知るのは、
それから20年ほど経ってからのことです。
当時私のまわりにR&Bを聞いている人はひとりもいませんでした。
情報は手に入れたものの、
今度は音源をどうやって手に入れたらいいか、わかりません。
学生ですから、
手当たり次第レコードを買うお金もありません。
(そう、レコードですよ。)
もちろん、お店で気軽に試聴することもできません。
(レコードですからね。)
そんなとき、
いつも私が途方に暮れていることを嗅ぎつける父が、
図書館でレコードを借りられるらしい、
ということを教えてくれました。
そこでバイト先にほど近い図書館に行ってみると、
ブラックコンテンポラリーだったか、
リズムアンドブルースだったか、
ちゃんとコーナーがあるじゃありませんか。
そこで出会ったのが、
アレサ・フランクリンの『ライブ・アット・フィルモアウエスト』であり、
『You』でした。
それから、毎週のように図書館に通う日々がはじまりました。
グラディス・ナイト、パティ・オースティン、ミリー・ジャクソン、
ポインターシスターズ、パティ・ラベル・・・
手当たり次第持ち帰っては、
カセットテープに録音し(今なら違法コピーと叱られるんでしょうが)、
歌詞カードをコピーして、
片っ端から完コピをしました。
その頃使っていた手垢のついた、
ボロボロの歌詞カードの山は、
つい最近まで捨てることができませんでした。
思いがけず、遠い昔に心が旅してしまいました。
今もR&Bということばを聞くたびに、
心の中で無限ループする、
「R&Bってお洒落やねん」も、
そのことばを言ってくれたコイワくんも、
図書館の匂いの染みついたレコードたちも、
その後私がはじめてやった、
R&Bばっかりを集めたライブを、
嬉しそうに見に来てくれた父の笑顔も・・・
あれから10年もしないうちに、
みんななくなってしまったものです。
時間も人も過ぎ去ってしまうけど、
思い出と音楽は残るのですね。
【追記:この記事はブログの不具合で消えてしまった、10月29日の朝書いた記事を、12時間後に記憶をたどって復元したものです。ご了承ください。】
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◆2019年11月20日(水)あの名プレイヤーたちの演奏でR&Bテイストを学ぶ!目からウロコのワークショップ。アンサンブル・ワークショップ in 東京 vol.3『R&Bクリスマス』開催!
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