「絶対売れる戦略」ってなんだ?
ずいぶん前のことになります。
某大手事務所さんが非常に力を入れていた新人がいました。
デビュー前から大きなプロモーションプランや、
翌年、翌々年に向けての制作プランもあって、
それなりに予算をドンとつぎ込んで、
大きく売りだそうという意気込みが、
スタッフの方と打ち合わせをするたびに伝わってきました。
もちろん、制作スタッフも超一流です。
ヒットメイカーの作家たちに加え、
サウンドプロデューサーも、
エンジニアも、
ミュージシャンも、
みんな、ぴっかぴか。
声も歌もルックスもバツグンで、
踊りもうまくて、写真映えもするアーティスト。
売るための戦略を知り尽くしているはずの事務所。
一流のクリエイターたちが、
ヒットの法則を駆使してつくりあげた作品。
売れないわけがない布陣です。
あぁ、この子、もんのすんごく有名になっちゃうのね・・・
と、日々わくわくと見守っていました。
ところが、です。
あの手この手のプロモーションむなしく、
セールスは伸びないまま。
結局、彼女の次のアルバムがリリースされることはありませんでした。
業界では実によく聞く話。
しかし、彼女をずっとそばで見守っていただけに、
このときばかりは、非常に考えさせられました。
戦略って、一体何だろう。
「絶対売れる戦略」を駆使しても売れない人。
たいした戦略を立てなくても、ぐいぐい売れていく人。
これを「アーティスト力」と片付けるのは簡単です。
しかし、世の中には、
誰が聞いても素晴らしい声で、
ルックスも曲も人柄もばっちりの売れない人というのが、
嫌と言うほど存在している。
では「運」なのか?
もしもそれを「運」と言うなら、
どんな努力も戦略も無駄です。
棚の下で口を開けて、
ぼとりとぼた餅が落ちてくるのを待つ以外、
やれることはないわけです。
それは、なんとも後ろ向きで、
憂鬱になる話ではないか。
さんざん考え、たどりついた結論は・・・
売れるための戦略を立てないより、立てた方が、
予算や人材をつぎ込まないより、つぎ込んだ方が、
うまく行く確率は上がるということ。
指をくわえて見ているだけでは、
絶対になにも起こらないということ。
チャンスや運に恵まれないなら、
挑戦する頻度とスピードを圧倒的に上げることで、
チャンスや運をつかむ確率は確実に上がるということ。
そして、
アーティストが情熱を持って、
飽きず、腐らず、投げ出さず、
根気よく、根気よく、
やるべきことをやり続けなければ、
けして結果は出ないということ。
もしも、出たとしても、けして続かないということ。
最後は信じる勇気。
継続する忍耐力。
何度でも挑戦する覚悟。
そんな力を蓄えることこそが、
「最高の戦略」なのかもしれません。

◆2019年11月20日(水)あの名プレイヤーたちの演奏でR&Bテイストを学ぶ!目からウロコのワークショップ。アンサンブル・ワークショップ in 東京 vol.3『R&Bクリスマス』開催!
関連記事
-
-
本質で語れ!
ヴォーカリスト、作詞家、歌の先生とキャリアを重ねて、 なかなかの「いいお年」にな …
-
-
「音の立ち上がり」を正確にとらえる
歌い出す瞬間の音。 音を移動するとき、音の階段を上った、その瞬間の音。 その瞬間 …
-
-
「プロになりたい」って一口に言ってもね・・・
少し前、若手売れっ子ドラマーがインタビューで、 「ドラムを始めたときから、歌バン …
-
-
「本屋を探しても答えがみつからなかったら、そん時はお前がその本を書け」
「わかないこと、知りたいことがあったら本屋に行け。 世の中には、お前とおんなじよ …
-
-
未来の自分を信じる~Singer’s Tips#29~
自分がオーディエンスだったら、 どんなシンガーを見たいか? どんな歌を聴きたいか …
-
-
「ヘタウマ」な人、「じょうず」な人、「いい声」の人。
若かりし頃、よく言われたことばに、 「キミってヘタウマだよね。」というのがありま …
-
-
生(リアル)な音、ください。
溝が浅くなるまで、繰り返し聞いたレコード。 ぼろっぼろになるまで、使い込んだ歌詞 …
-
-
「美しき手順」を持つものに、運命の女神は微笑むのだ。
「はじめて日本に行って、 お店でちょっとしたおみやげを買ったとき、 本当にびっく …
-
-
自分の行動には自分で責任を持つ。
コロナウィルス問題、 本当に大変なことになっていますね。 影響を受けている方、対 …
-
-
それはプラシーボじゃないのか?
いい楽器は、いい音がする。 名のある歌手は、やっぱりうまい。 高価なフルーツは、 …
- PREV
- 「R&Bって、お洒落やねん」
- NEXT
- 関係性がつくれないから上達しない。
