大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「絶対売れる戦略」ってなんだ?

   

ずいぶん前のことになります。

某大手事務所さんが非常に力を入れていた新人がいました。

 

デビュー前から大きなプロモーションプランや、
翌年、翌々年に向けての制作プランもあって、

それなりに予算をドンとつぎ込んで、
大きく売りだそうという意気込みが、
スタッフの方と打ち合わせをするたびに伝わってきました。

もちろん、制作スタッフも超一流です。

ヒットメイカーの作家たちに加え、
サウンドプロデューサーも、
エンジニアも、
ミュージシャンも、
みんな、ぴっかぴか。

声も歌もルックスもバツグンで、
踊りもうまくて、写真映えもするアーティスト。

売るための戦略を知り尽くしているはずの事務所。

一流のクリエイターたちが、
ヒットの法則を駆使してつくりあげた作品。

売れないわけがない布陣です。

あぁ、この子、もんのすんごく有名になっちゃうのね・・・
と、日々わくわくと見守っていました。

 

ところが、です。

あの手この手のプロモーションむなしく、
セールスは伸びないまま。

結局、彼女の次のアルバムがリリースされることはありませんでした。

業界では実によく聞く話。
しかし、彼女をずっとそばで見守っていただけに、
このときばかりは、非常に考えさせられました。

 

戦略って、一体何だろう。

「絶対売れる戦略」を駆使しても売れない人。
たいした戦略を立てなくても、ぐいぐい売れていく人。

これを「アーティスト力」と片付けるのは簡単です。

しかし、世の中には、
誰が聞いても素晴らしい声で、
ルックスも曲も人柄もばっちりの売れない人というのが、
嫌と言うほど存在している。

 

では「運」なのか?

もしもそれを「運」と言うなら、
どんな努力も戦略も無駄です。
棚の下で口を開けて、
ぼとりとぼた餅が落ちてくるのを待つ以外、
やれることはないわけです。

それは、なんとも後ろ向きで、
憂鬱になる話ではないか。

 

さんざん考え、たどりついた結論は・・・

売れるための戦略を立てないより、立てた方が、
予算や人材をつぎ込まないより、つぎ込んだ方が、
うまく行く確率は上がるということ。

指をくわえて見ているだけでは、
絶対になにも起こらないということ。

 

チャンスや運に恵まれないなら、
挑戦する頻度とスピードを圧倒的に上げることで、
チャンスや運をつかむ確率は確実に上がるということ。

そして、

アーティストが情熱を持って、
飽きず、腐らず、投げ出さず、
根気よく、根気よく、
やるべきことをやり続けなければ、
けして結果は出ないということ。
もしも、出たとしても、けして続かないということ。

 

最後は信じる勇気。
継続する忍耐力。
何度でも挑戦する覚悟。

そんな力を蓄えることこそが、
「最高の戦略」なのかもしれません。


◆2019年11月20日(水)あの名プレイヤーたちの演奏でR&Bテイストを学ぶ!目からウロコのワークショップ。アンサンブル・ワークショップ in 東京 vol.3『R&Bクリスマス』開催!

 - B面Blog, The プロフェッショナル, 音楽人キャリア・サバイバル

  関連記事

人生は「パッション」がつくるのだ。

ある時期、心から夢中になって、 一度でも自分のカラダの中を通り過ぎたものは、 自 …

説得力のある人は、エネルギー値が高いのだ。

聞く人の心にどかんと飛び込む「説得力あるパフォーマンス」。 はじめてギターを抱え …

「教える者」であるということ

学生時代。 先生が生徒をジャッジするより、 生徒が先生をジャッジすることの方が圧 …

「自分の名前」と、今一度向き合う。

作詞者は曲のタイトルを。 編集者は、本のタイトルを。 起業家は会社名を。 そして …

「それは、MISUMIさんが無理だって思っているからです」

後に圧倒的な成功を手にすることになる、 ある若き女性と、 食事をしていた時のこと …

Myマイク派 vs. Anyマイク派

最近、レッスン、ライブ、リハーサルなどに、 自分のマイク、いわゆる「Myマイク」 …

100万人と繋がる小さな部屋で。

デビュー前からヴォイトレを担当している、 アーティストのライブに行ってきました。 …

「自分のことば」になってない歌詞は歌えない!

役者さんがしばしばつかうことばに「セリフを入れる」というのがあります。 この「入 …

自分自身こそが「最も手強いオーディエンス」だ/『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』

「観客のことは意識しないことにしている。 クリエイトするときはいつもそうだ。 ま …

口コミで仕事がくる人の秘密の習慣

音楽業界のような、入れ替わりの激しい、熾烈な場所で、 私のようなヴォーカリストが …