大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

関係性がつくれないから上達しない。

   

ここ数年、芸能事務所や音楽事務所の
新人育成ワークショップを担当させていただく機会が増えました。

下は小学校低学年から、
20代前半の若者たちまで。

それぞれのゴールも、
シンガー、役者、声優、アイドル、モデルと、
実にさまざまで、
当然、やる気にも大きな差があります。

こんなとき、
やる気のない子にあわせて、
おもしろおかしいレッスンばかりをすれば、
レッスン中になにかひとつでも学び取って、
自分のキャリアに繋げたいと取り組む、
意欲的な子たちを裏切ることになります。

とはいえ、
「磨けば光るのでは?」と事務所の方たちが信じて、
レッスンに通わせている子たちです。

今ひとつ、しゃきっとしない子たちを
その気にさせて、
眠っている才能を引き出すのも仕事のうち。

さてどうしようと、
こどもたち、若者たちのようすを観察しながらレッスンしていると、
どんな子にも、必ず、
目がキランと輝くキーワードがあるのです。

ある子にとっては、それが、
自分が得意としているスポーツだったり、
他の習い事だったり、

ある子にとっては、
家族の話だったり、
お友だちの話だったり、

またある子にとっては、
ディズニーやアニソンだったりします。

なんでもいいから、
自分のことを話題にして欲しいような子もいます。

レッスン中、ところどころにそんなキーワードをちりばめると、
それまで、受け身で「やらされているレッスン」だったのに、
いきなり、「自分に関係のあるレッスン」になるようです。

 

1度興味を引き出して、
心をつかんでしまえば、
後は多少厳しいことを言おうが、
難しい要求をしようが、
食い下がって、がんばれるもの。

こうした「自分自身との関係性を築く」ことは、
子どもだけでなく、
なにかを習得したいと考えている人にとって、
真っ先に取り組むべき大切なことです。

 

関係性を見出せるから、興味が生まれる。
興味がわくから、楽しくなる。
楽しくなるから、ますます取り組んで、上達する。
知れば知るほど、関係性は深くなる。

 

一昔前の日本では、
「汗水たらして」「こつこつ」「がんばる」のが、
美徳とされていました。

だから、
努力が嫌い
→がんばれない
→勉強もお稽古も上達しない
→ダメな人間と、
人にレッテル貼られたり、
自分自身にレッテルを貼ったりして、
負のスパイラルに入ってしまう人が、
たくさんいました。

しかしです。

勉強だって、練習だって、
よほどマゾヒスティックな、
つまり、苦しいことそのものが快感と感じるような人でもない限り、
苦しいだけ、辛いだけで続くわけはないんです。

よしんば続けていたって、
「耐える」方にばかりエネルギーをつかって、
ちっとも身になりません。

 

ねじりはちまきで
机にかじりついてがりがり英単語の暗記をするよりも、
英語をネイティブにしゃべる異性とおつきあいする方が、
圧倒的に英語の習得は早い。

ピアノやお習字を何年習っても
「不器用」で上達しない子が、
複雑なゲーム機を華麗な指さばきで操って、
好成績を上げたりします。

 

とにもかくにも、
自分と、取り組みたい物事との関係性を見出すこと。
楽しくなるくふうをすること。

勉強法や上達法は、その後にくるのです。


◆2019年11月20日(水)あの名プレイヤーたちの演奏でR&Bテイストを学ぶ!目からウロコのワークショップ。アンサンブル・ワークショップ in 東京 vol.3『R&Bクリスマス』開催!

 - B面Blog, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

ノドを痛めるのは「大きな声を出すから」ではなく「出し方が悪いから」

「大きな声=ノドを痛める」と思っている人が、 あまりに多いことに、いつも驚かされ …

マスクは「声」をダメにする!?

先日、新宿駅を歩いていたときのこと。 背後でおしゃべりしている若い女性たちの声を …

「ケツカッチン」で、劇的に成果を上げる

延ばせないデッドライン(締め切り)のことを、 業界用語で「ケツカッチン」と言いま …

がんばり方は教えられません。

何年か前のこと。 レッスンにやってきた学生があきらかに練習した形跡がないので、 …

「なめたらあかんぜよ」

先日、勢いでiPhoneを10から15にしたおかげで、今までiPhoneを繋げる …

歌っている自分を直視できますか?

自分が歌っている姿を鏡で見ながら、 練習やリハーサルをしたことはありますか? こ …

よき時代のよきものを、 いい形で後世に伝える方法

高校時代、何が嫌いって「古文」の授業くらい 嫌いな授業はありませんでした。 使わ …

「一緒にバンドやってくれませんか?」

「自分、なんでバンドやらんの? ワシ、自分の歌、ごっつええ、思うで」 人生を変え …

「カッコいいもの」と、それ以外

音楽学校などで、 「この曲を練習してきて」と課題曲を渡すと、 「この通り歌わなく …

リズムをカラダで感じるための初歩練習~Singer’s Tips#28~

音楽にあわせて足踏みをする。 手を叩く。 小さなこどもが音楽教室に入って、 一番 …