「教える者」のゴール
生まれて初めて「新入生」に会ったときのことを今でもハッキリと覚えています。
それは、とある学校で、「空き時間だけ」という条件で、
腰掛け的な気分で教えはじめて、1年が経過したときのこと。
ボーカリスト以外の何者にもなる気のなかった私でしたが、
その1年間で、教えることが異様に向いていることを悟ってしまい、
「今年からは」と腹をくくって、週に1度、丸一日だけ、
「先生」としてやっていこうと決めた、4月のことでした。
そうして、それまでとは違った立ち位置で生徒たちや、
学校というものを眺めてみると、
それまで考えてもみなかった、さまざまなことに思い至ります。
そもそも、なんでこの子たちは、この学校を選んだのか。
大学だって、専門学校だって、世の中にはたくさんあるのに、
この場所の、この学校を選び、
学費を納めて、青春の2年間をこの学校に捧げようと決意するまでに、
彼ら自身、そして親御さんたちにも
どれほどの葛藤や夢や思いがあったことか。
18才〜20才といえば、人生のゴールデンタイムです。
その、人生に大きな影響を与えるであろう大切な、大切な時間を、
特定の学校で、音楽を学ぶことにあてようと決意した、その思い。
そうして、けして安いわけではない学費を払い、
生活費を払いして、
こどもたちの夢を応援してあげようとする親御さんたちの思い。
「これは大変な仕事をすることになったぞ」
その時、真剣に、そう感じました。
それまで、業界で10数年の間、自由気ままに仕事をしてきました。
サポートにレコーディングに作詞にライブにと、
ありがたいことに、最初の1〜2年以降、仕事に困ることもなく、
もっといい音楽、もっといい仕事、もっといい仲間、と、
ただただ、貪欲に音楽のことばかり考えて生きて来た私が、
初めて、自分以外の人の夢のために、
時間と思考をつかわなくてはいけなくなった瞬間でもありました。
音楽の講師、プライベートのトレーナーという仕事は、
腰掛けや、「でもしか」ではできない仕事です。
それではいけない、仕事です。
「空いている時間に楽しくやりたい趣味」をお手伝いするのが仕事の、
カルチャースクールや、ご近所のお稽古事の先生というのとは、
責任のあり方が全然違います。
学生たちやアーティストたちの描く夢のゴールを共に見据え、
明確な地図を引き、スケジュールを立て、
確実に、目標を達成できるようペーシングしながら、
自らの持てるノウハウや経験のすべてをシェアしていく。
まさに身を削るような心構えと努力が必要です。
そして、自分自身がステージに立つとき以上に
プロフェッショナルとしての実力を試され、
これまでの音楽経験やノウハウを問われ、
業界でのキャリアを問われ、
さらに、自分ができることをきちんと言語化できる能力、
論理的、科学的に解明でき、説明できる能力、
そして、何よりも、生徒たちへの愛情が試される。
本物のトレーナーとは、そんな仕事です。
彼らが卒業するときに、どんな現場にでも、胸を張って送り出せるような、
クオリティの高い授業を提供するには、どうしたらいいか。
メソッドを積み上げ、カリキュラムを構築し、スケジュールを立て直し・・・
まだ、まだ、まだ、まだ・・・
最早オブセッション。
そんな1年が、またはじまります。
覚悟です。
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