大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「やぶヴォイストレーナー」

   

「しばらくがんばってヴォイトレに通ってたんですけど、
全然成果が出なくて・・・」

そんな話を小耳に挟むと、
思わず身を乗り出してしまうのが、私という人間の性。

「どんなことやってたんですか?」

揚げ足を取りたいわけでも、
産業スパイをするわけでもありません。

純粋に、職業的興味で、
「成果の上がらないヴォイトレ」というもののデータを集めたい。

なぜ成果が上がらないのか、理由を検証したい。

せっかくお金と時間を投資したのに、
「やっぱり、ダメだったか」と肩を落としている人たちに、
ちょっとでも有益なアドバイスをしたい。

そんな衝動に駆られるのです。

「成果の上がらないヴォイトレ」の話を聞いて、

「それはレッスンのせいじゃなくて、
あなたの取り組み方の問題ですね」と、
告白してくれた人をたしなめることも、
まぁ、ゼロとは言いません。

しかし、7割以上が、
「いやいや。それやってても、あなたの悩みは解決しないから。」
と、眉毛が片方上がっちゃうような、
もやもやするレッスンのお話。

そして、残りの3割ほどは、
「は〜!?ちょっと、そのトレーナー、ここに連れてきてくれる!?」
とシャウトしたくなる、驚愕の勘違いレッスン。

よそ様のやっていることをとやかく言うつもりはありません。
受けているレッスンに満足しているという方を、
洗脳したり、勧誘したりする気はさらさらないし、
第一そこまで暇じゃありません。

 

ただね。
腹が立つんです。

なんの根拠もない「思い込みメソッド」。
今さらのように繰り返される「根性論」。
聞きかじり、寄せ集め、未消化の「なんちゃってレッスン」。
なんでやねんの「スピリチュアル系ヴォイトレ」。
そして実績も実力もない、
○○学校出ただけの「でもしかトレーナー」・・・。

 

歌手やアナウンサー、役者志望などの人はともかく、
一般の人がヴォイストレーニングに通おうと決心することって、
英会話に通おうとか、
ジムに通おうとか決心することよりも、
はるかにハードルが高いと感じています。

ビジネスに直接関係するスキルというわけじゃない。

健康やダイエットに直結するとか、
キレイになれるとか、
人にほめられるとか、
資格が取れるとか・・・

そんな風に、かけるお金や時間や労力が、
わかりやすい形で返ってくる、というものでもありません。

英会話やジム通いを、ゼロをプラスにしていく行為とするなら、
ヴォイトレはマイナスをゼロに近づけていく行為。

そもそものスタート地点が、
コンプレックスや悩みであるケースが圧倒的に多いので、
「ヴォイストレーナーを探そう」と考えた時点で、
そこには相当な想いがあるわけです。

その想いを、受け止めて、原因を探り当て、
解決策を提示し、
二人三脚で解消していくのがヴォイストレーナーの仕事です。

だからこそ、
明確なゴールと、解決するまでのプロセス、
そして、必要なレッスン期間を提示できなくてはいけない。

少なくとも、そうできるように、
日々学び、あらゆる手段で情報を集め、
さまざまな症例を元に、
実験や検証を繰り返す必要があります。

そう考えると、
ヴォイストレーナーの仕事はお医者さんの仕事に限りなく近い。

お腹が痛くて七転八倒して病院に駆け込んだ患者さんに、
処方箋も出さずに、
いきなり食事指導をするお医者さんはいません。

指を切って、血がだくだく流れているのに、
漢方薬がいいんですよ、なんて、
のんびり漢方薬を煎じるお医者さんもいない。

風邪引いて高熱が出ている患者さんに、
「なるほど〜。じゃ、まずはストレッチからやりましょうか。」
なんて、お医者さんがいたら、ぶっ飛ばしたほうがいい。

でも、そんな「やぶヴォイストレーナー」の話は、
うんざりするほど、たくさん聞こえてきます。

自分自身のメソッドを何度も見直す。
検証する。
体系化する。
俯瞰する。

さまざまな分野の専門家や、優れた先人の指導を仰ぐ。

学ぶ。
学ぶ。
学ぶ。。。

SNSやブランディングや営業に精を出して、
やたら生徒さん集めをする前に、
やらなくてはいけないことは、
まだまだ腐るほどあるのです。

 

自戒を込めて。


7月18日(木)第2回 BizLab『枯れない声』。
あなたの声の悩みによりそって、2時間で解決するワークショップ/Biz Lab。「声が枯れやすい」というお悩みを持つ方はぜひ。

 - ヴォイストレーナーという仕事

  関連記事

思い込みと勘違いで他人に意見するのは一種の迷惑行為。

何年か前、知り合いの女性ヴォーカリストに、 「私、衣装は全部ネットで買っているわ …

歌のブートキャンプ、スタートします!/短期集中で歌はどこまでうまくなるか?

“歌を志す人のための新しい講座「MTL vocal BootCamp …

生徒たちとの距離感。

「生徒たちとの距離感」は、人にものを教えるものにとって永遠のテーマとも言えるでし …

“トレーナー”というものの役割を思う。

音楽の世界ってゴールはないんだよな。 ワクチンの軽い副反応で、 なかばサボりなが …

「あきらめていた夢」を、もう一度追いかけるということ

「音楽は、何才で始めなくちゃいけない」、なんていう制限はありません。 「好き!」 …

単なるボーカリストだった私が、ボイス&ボーカルトレーナーになった理由

はじめて人に歌というものを教えたのは、 まだ、ボーカリストとしてのキャリアもそこ …

「やる気」の不在

おとなになると、人は、 時に義務感で、 時に人間関係を壊したくなくて、 時に損得 …

no image
レッスンは『教育テレビ』じゃなくて『ハリウッドムービー』

レッスンは、単に知識や技術を教える場ではありません。 声や歌は、その人の人間性や …

100万人と繋がる小さな部屋で。

デビュー前からヴォイトレを担当している、 アーティストのライブに行ってきました。 …

先生たるもの、いつだって「文句あるかい!?」くらい、気合いを入れて立ち向かわなくてはいけません。

世の中の「先生」と呼ばれる人や「学者」と呼ばれる人たちにも、 やっぱりパワーゲー …