大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「完全無欠」を更新する。

      2020/01/21

「自分の頭の中にあることのすべてを文字化したい」などという、
イカれた考えに捕らわれる人は、
どのくらいの確率でいるのでしょう。

そんな、オブセッションとも言うべき思いに、
最初に捕らわれたのは2013年。

2011年に最初の一般書『自分が伝わる声ヂカラ』を出版し、
翌年、衝動的に、この春出版されるヴォイトレ自己啓発小説『Lennon』を書き、
私の「次」はなんだろうと模索していた頃のことです。

ヴォーカリストとして、
ヴォイストレーナーとして学んだ知識と経験のすべてを、
言語化&文字化できたら、
会いに行けない人にも、
なんなら私がこの世にいなくなってからでも、
私のメソッドを伝えられるんじゃないか。

そうしたら、私が10年かかったこと、
20年かけて学んだことを、
みんなは数年で体得できるようになるんじゃないか。

そんな妄想に駆られ、
真っ先にしたのが、ミニサイズのバインダーと
ルースリーフを手に入れること。

 

私はクリエイティブなことをするときは、
絶対に「器」が大切と思っていて。

ノートにも筆記用具にも、
ブログのスキンや写真にも、
とりあえずこだわります。

そのときの気分にしっくりくるものが手に入った時点で、
最後までやりおおせる確率と、
取り組むモチベーションは3割、いや、4割アップします。


バッグに入れて持ち歩きやすいことと、
1トピックごとに完結したかったため、
こだわったのはA5サイズ。

実は、このこだわりのせいで、後々、
いろんなものを縮小コピーしなくちゃいけなくなるんですが、この右側のインデックスの窓が可愛くて、即決しました。

 

次はタイトルです。

ね?なんでも形から(^^)

プロジェクト名がしっかりないと、ぶれるんです。

誰に頼まれたわけでもない、
誰と約束しているわけでもない。

誰にも言わずにいきなりスタートし、
完成するまで誰にも言わない、秘密のプロジェクトですから。
自分で自分を盛り上げるためにも、
プロジェクト名が明確なものであることはホントに大事。

プロジェクト名がハッキリしていると、
完成したときの形が見えてくるんですよね。
もうできあがっている気持ちになる。

アルバムのタイトルや、
曲のタイトルが先にポンと浮かぶ時みたいな感じかな。

 

思い浮かんだタイトルはいつものように大風呂敷でした。

“MTL Complete”。

だってさ。
私というコンテンツを完全無欠に文書化しようとしてたわけなので、
それはもう、絶対に「コンプリート」です。

で?なんで手書き?

と思う人も多いと思いますが、
私、万年筆を持つと脳の中の別のドアが開くんです。

それはもう気が遠くなる長い時間、
紙とペンと私というタッグで、
いろんな思いを解き放ってきましたから、
なんというか、ややマジカルな感覚になるんですね。

そうして書き始めてみると、

何に驚いたって、
私にとってあたり前すぎた多くのことが、
言語として人に伝えられるレベルには、
理解できていなかったということ。

疑問をひとつ解決すると、
それを深く理解し、説明するために、
その10倍の疑問が浮かびあがります。

例えば、「姿勢よく」の「よく」とは、一体全体どんな状態か。
なぜ姿勢をよくする必要があるのか?
どうやったら、「姿勢がよい」という状態をつくれるのか?
それは不自然な姿勢ではないのか?
なぜ自然な姿勢なのに、多くの人は辛いと感じるのか?
西洋医学的な姿勢の治療法と、東洋医学的な姿勢の治療法とは、なぜ違うのか?
よい姿勢を誰もが意識できる方法はなにか・・・etc.etc…

しつっこぉ〜〜い。。。💦

こんな考察を次から次へと展開しながら、
山のように本を買い込み、
海外の論文などを読み、
自分のカラダをあちこち障り、
一項目、一項目、書いてゆきました。

書いたものをどうしようとか、どうしたいとか、
ビジョンがあったわけでは、もちろんありません。

 

ただ、頭の中でずぅ〜っとリピートしていた2つのことば。

“If you make it he will come.”

映画”Field Of Dreams”の冒頭で主人公が聞く声です。

「つくれば、それを必要としている人がやってくる。」
そのときの私は、そんな風に解釈していました。

そして、もうひとつは、
「5才のこどもにもわかるように書く」です。

私はプロだからと、
格好のいい専門用語を並べ立てて、
エラそうに上から何を語っても、
聞き手の心には何も響かない。

物事の本質がわかっている人間なら、
どんなレベルの人にも、
確実に届くことばで、
届くメッセージを伝えられるはず。

そんな風に考え、
イラストをたくさん描いては切り貼りしたり、
いろいろなところからお借りした写真やイラストを、
これまた切り抜いて貼ったり、

来る日も、来る日も、アナログな作業を
延々と続けました。

あぁ、オタク。


完成までに何ヶ月かかったのだったでしょうか?

半年?
いや、もう少しかかったかもしれませんが、
あまりに没頭していて、
時間の経つのを忘れていました。

 

 

やがて、この”MTL Complete”が
MTL ヴォイス&ヴォーカルレッスン12、
やがては MTLオンライン12のテキスト&メソッドとなり、
インストラクター養成コースで最初に学ぶ基礎となり、
音大のテキストとなったのでした。

 

メソッドへの思いは、
語り出すと本当に止まらなくなります。

 

「完全無欠」だったはずのメソッドは、やがて、
自分の「今」という基準に合わなくなり・・・

また、新たな旅がはじまるのでした。

そんなお話は、また。


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