大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

そのボイトレで本当にいいんですか?

      2016/10/27

かつて某大手プロダクションの新人育成を任された時のことです。

レッスンにやってきたのは、ボーカリストのBくん。

いつものように、早速、ヒアリングからスタートし、カラダを拝見したり、
歌ってもらったりしました。

Bくんは、さすがディレクターさんたちのお眼鏡にかなっただけあって、
ユニークで、いい曲を書く、魅力的なパフォーマーでした。

しかし・・・なんだか発声がものすごく苦しそうなのです。

 

声も悪くないのですが、顔をしかめて、「あ゛〜〜」と、
声を絞り出すようすは、絞め殺される寸前の断末魔さながらでした。

 

いやいやいやいや・・・

だって。Bくん。
某音楽学校のボーカル専攻で1年半も歌を勉強したって言うわけなんですよ。

 

「真面目に学校行ってないの?」

「え?いえ。皆勤賞です」

 

あーあ。こうなると、聞きたくない質問をすることになります。
もちろん、何気なく、それとなく、なんとなく、カジュアルに・・・

「ふぅ〜ん。ボイトレとか、レッスンある?」

「はい!もちろんです。みんなで、声出してますよ。」

「(嫌な予感)みんなって、なんにんくらい?」

「あー30人くらいでしょうかねー。もっと多いときも少ないときもあります・・・」

 

これだけは明言したいのですが、
私は人様が受けているレッスンを批判したり否定したりすることは、
極力しないように心がけています。

人が何を信じるかは自由です。

「正しい」「間違っている」はあくまでも主観的な判断。

私自身のセオリーや方法論は私にとって正しくても、
他の誰かにとっては、しっくりこないかもしれない。

人は自分が信じたいことを信じる。
そして、信じることで人生のバランスを取っている。

だから、誰かが信じていることを頭から否定したり、
「お前は間違っている」といきなり諭そうとすることは、
自分自身のおごり、エゴだと考えているからです。

 

しかし。しかし。しかし。

 

どんな方法論で教えようとも、
1年半も時間をかけて、ボイストレーニングをして、
ニワトリの断末魔のような発声しかさせられないとしたら、

その理由は3つのうちひとつ。
1.サギ師である。

2.やる気がない。

3.まったくもってわかってない。

それ以外、考えられないわけです。

 

ちなみに、「音楽学校」といえば、どんなにリーズナブルな学校でも、
年間100万円程度の学費がかかります。

地方から東京にきていれば、親御さんにはその倍の負担があるでしょう。

 

私がボイトレを仕事にしようと決意したのは、
こうした若者に嫌と言うほど出会ってきたからです。
学校を信じて、先生を信じて、
お金と時間と若さを無駄にしてしまう若者たち。
そして、もっと問題なのは、
もちろん教えている側も、学校サイドも、
けして、けして、詐欺行為をしようとか、
質の悪い教育をしようとか、考えているわけではない。
むしろその反対で、

少しでも、グレードの高い講師の先生をお呼びして、
少しでも、グレードの高い教育をしたいと考えている。。
日本のボイトレの問題は、すべて、
そのスタンダードが存在しないことにあるのです。

 

なんだか熱く語ってしまいました。

 

私に、そのスタンダードがつくれるかどうかはわかりません。

少なくともスタンダードのたたき台を創ろうと、
ここ数年、身を粉にして戦っています。

 

ちなみに、Bくんにさらに質問をしてみたところ・・・

そのボイストレーニングのレッスンを見ているのは、
キーボードの先生だということ。

だから、「もっと大きい声出して〜」
「はい、がんばって〜」しかアドバイスがないとか。

 

理由は、「ボイトレの先生はピアノ弾けませんから。」
・・・

まだまだ熱い戦いは続きそうです。

22756898_s

明日12時ころ発行予定のメルマガno.122では、「あなたを本当に上達させてくれるボイストレーナーとは」について、少し詳しく書きます。すでに先生がいらっしゃる方は、読まないでくださいねー。

バックナンバーも読めますので、よろしければ是非こちらから登録してくださいね。

 - イケてないシリーズ, ヴォイストレーナーという仕事

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

  関連記事

プロを目指す人のためのボイス&ボーカルトレーナーという仕事

プロを目指す人のボイストレーナー、ボーカルトレーナーという仕事は、 山岳ガイドの …

アドリブは「テキトーに演る」ということとは全然違う。

「ここはアドリブっぽく歌ってください」 「8小節、アドリブお願いします」 &nb …

「育てる」んじゃない。「育つ」んだ。

「あいつは俺の弟子だったから。あいつを育てたのは俺だよ。」 有名人や、一流の人た …

やっぱ、最後はエネルギー。

歌の指導をしていく中で、 心がけているのが、 感覚的な説明に終始したり、 精神論 …

「とにかく、ゆっくり」から、はじめよう。

以前、書道家の方に自分の名前の書き方というのを習ったことがあります。 先生が繰り …

「あ、あれ、まだ書いてない」

「MISUMIさんのブログって、声や歌の話、ほとんどないですよね。」 そんな風に …

「わかることばで教えてください!」

音楽業界に長くいるほど、 どこまでが専門用語で、どこからが一般のことばか、 これ …

あの頃の私を探さないでください。

中学で音楽に目覚めてから、 プロの世界の入り口に立つまで、 とにかく音楽以外のこ …

「ピッチが悪い!」を直すロジカルシンキング

「ピッチが悪い!」 年間通して、いや、1週間に、 このことばを、何回口にするでし …

「無神経」も「曖昧」もダメなんです。

「MISUMIってさぁ、お勉強は出来るけど、頭悪いじゃない? あ・・・ごめんね。 …