それで、いい声、出せますか?
先日、とある生徒さんのレッスンをしていた時のこと。
ずいぶん小柄な彼女なのに、
高い声を出すのが苦手と言います。
反対に、低い声を出してもらったら、
「え?そんなとこまで鳴らせるんだ!」と関心するくらい、
しっかり出ている。
低い声は声帯様の長さで決まるので、
背の低い人は低い声が苦手。
反対に、高い声は出しやすい・・・はず。
「ふーん」と関心しつつ、理由を聞いてみると、
以前ついていた先生が、
「ソプラノは人気があって、役が取りにくいから」
という理由で、女性生徒は全員、
メゾかアルトのトレーニングを受けさせられていた、
というのです。
えぇえええぇええっ!!
いや。
本人が低音で歌う事に憧れているとか、
なにがなんでも、役を取りたいとか、
言ったというのならわかります。
しかし、まだ若者です。
本人たちは、言われるがまま、
素直にレッスンを受けるだけ。
それって、ヴァイオリンしか持ってない人に、
「ヴァイオリンの曲は誰でも弾きたがるし、
競争率が高いから」という理由で、
チェロの譜面を渡して練習させるようなもの。
フェザー級の選手に、
「フェザー級じゃなかなか試合に出られないから」
という理由で、
無理矢理食べさせて、
5㎏、10㎏太らせようとするようなもの。
ね?どうです?
変じゃない?
繰り返します。
自分が望むならいい。
自分がやりたいなら、わかるんです。
けど、それを教育者が勝手に決めつけるのは、
教える側の傲慢ではないのか?
人の心に「歌いたい」という思いが宿るのは、
自分という楽器の最高の音を出したいという、
本能的な欲求が目覚めるからだと考えています。
そんな欲求を満たされることなく、
本来の声を引き出されることなく、
「こういうことができたらお仕事あるよ」
という職業訓練のようなトレーニングをほどこされる。
それで、いい声、出せますか?
それで、自分を認められますか?
自信を育むことができますか?
もちろん、それでお仕事につけて、
幸運だと考える人もいるかもしれない。
その訓練から、新しい才能に目覚める人も、
たぶん、いるでしょう。
しかしです。
世の中には、
メゾや、アルトの体格に生まれ、
立派で長い声帯様を持ち、
低音で歌うことが気持ちよく、大好きで、
来る日も来る日も、
メゾやアルトの楽曲を聞き、
それを練習している人がいる。
そんな人に、
「先生が、こっちの方が得だと言った」という理由で、
練習している人が勝てるわけがないんです。
意見を求められる立場だったり、
意見を述べたりすることが仕事だったりする人たちは、
自分の口が発することばの影響力や意味を、
真剣に考えて口にする必要があるのです。
自分の発することばが、
言われた相手に与える影響力を、
けして過小評価してはいけない。
自分の損得や趣味趣向や思い込みで、
受け手の心を、ポテンシャルを、
踏みにじるようなことがあってはならないのです。
そしてもちろん、受け取る側も、
そんな無責任な送り手のことばに惑わされずに、
自分自身の「今」を選び取る覚悟と勇気も
試されますね。
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