話を聞かない生徒 話をさせない先生
2015/12/20
「これは、こんな風に歌うのよ」と、
お手本を聴かせるためにこちらが歌い出した瞬間、
こちらの声にかぶせて、一緒に歌い出す生徒というのがいます。
はじめは、「たまたまかぶっちゃったのね」、
「あ、今、聴くところってわかってないんだ」と、こちらもスルーするのですが、
毎回、毎回、「じゃあ聴いて」と言っているにもかかわらず、一緒に歌い出す。
聴く耳を持たないのは、感性が鈍い証拠です。学習の進行も当然遅い。
何回か続くと(続かなくても)、さすがにこちらもイラッとするので、
「ちょっと、聴いててっ!」と鋭く叱ります。
一般的には、先生と言われる人がお手本を聴かせようと歌い出したら、
口をつぐんで耳を傾けるのが常識です。
目の前でお手本を見せてくれるのですから、
耳だけでなく、五感を使って、全身全霊を込めて、
先生のやることを、見て、聴いて、感じて、盗まなくてはいけない。
そんな子に限って、話をしても、どこか上の空で心に響いている様子がない。
人が話しているのに、途中で自分の話にすり替えてしまうことさえあります。
「あなたは私の話が聞きたいの?それとも自分の話がしたいのっ!?」
そう、シャウトしたこともありました。
聴く耳を持たないというのは、情報に対し、またはコミュニケーションに対し、
心が閉じている証拠です。
自分の価値や、認識、知覚の範囲内だけで、理解できる情報以外は、
すべてシャットアウトしてしまう。
これでは、成長も拡大もあり得ません。
いや。ちょっと待って。
これって、生徒だけのお話でしょうか?
トレーナーも長くなるほどに、手癖や、習慣でレッスンをするようになりがちです。
自分の価値観、認識の範囲内だけで、生徒たちの状況を切り取り、
おきまりのアドバイスを繰り返すようになる。
生徒たちの言葉に、歌に、きちんと耳を澄ましているか?
生徒たちが発する情報を、「自分の常識」という色眼鏡をかけることなく、
素直な気持ちで受け止め、その価値観を理解しようとしているか?
こどもたちが先生の話を聞けないのは、家庭環境、すなわち育ちの問題です。
先生がこどもたちの話を聞けないのは、感性の老化です。
前者は、教える方が忍耐を持って訓練すれば正すことができますが、
後者は、自分で気づかなければ、誰も教えてくれません。
教わる方も教える方も、一生勉強です。
じっと胸に手を当てる夕べです。
関連記事
-
-
「迷い」に耳を貸さない覚悟
「これだ!」と閃いて、 ワクワクはじめたはずなのに、 なぜかうまくいかない、 こ …
-
-
「自分の声の地図」を描く
「あなたの音域はどこから、どこまで?」 「え?」 「高い方はどこまで出るの?下は …
-
-
ちゃんと元取れっ!
けして質素なタイプというわけではありませんが、ことコスパに関しては誰より厳しいと …
-
-
「限界ギリギリの定番曲」をいきなり歌う。
練習はルーティンからはじめる、というのは、 どんなスポーツでもおなじではないでし …
-
-
自信、自信、自信。
こどもの頃から声が大きくて、 大勢で騒いでいても、 友達の話に相づちを打っている …
-
-
「ダメ出し」こそが、プロの技を試される仕事なのだ
他人にダメ出しをする人には、 自分のためにダメ出しをする人と、 相手のためにダメ …
-
-
自分を追い込める人こそが、最も成長する。
人の一所懸命度は、 その人のおかれている状況の難しさに比例する。 …
-
-
「情報」との関係性を見極める
学校で音楽や歌を学ぶ一番のメリットは、プロフェッショナルの先生方に、 そのノウハ …
-
-
そんなこと、 何年やってても、絶対にうまくなりません。
プレイヤー目指して、 日夜がんばっていたにもかかわらず、 てんで上達しなかった自 …
-
-
「練習が嫌いなんじゃない。「練習をはじめること」が嫌いなんだ。
以前、プロで活躍していたという元スポーツ選手と話していて、 「今でも、毎朝、ジョ …
- PREV
- 歌の構成要素を分解する〜ラララで歌う〜
- NEXT
- 声の老化は隠せない
