大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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英語の歌詞が聞き取れない!?

      2015/12/20

かつて、日本で発売される洋楽のレコードには、
ジャケットと同じ大きさの、大判の歌詞カードが入っていました。

レコードの解説や、音楽評論家の批評などに続き、歌詞カード、対訳。

この付録で、英語を覚えた、音楽の知識を得たという人も多かったと思います。

しかし、この、「付録の歌詞カード」、なかなか困った存在でした。

間違いだらけなのです。

歌詞カードを片手に曲を聴き込むほどに、また、英語を学ぶほどに、
次々と間違いが見つかり、「これって違うのでは?」という疑問が浮かびました。

誰が、どうやって歌詞を聞き取っていたのか。
ネイティブの仕事でないことは明らか。

やがて、歌詞カードは信用できない存在になりました。

とはいえ、そもそも自分の耳で英語が聞き取れるほどなら、
歌詞カードなどと首っ引きで曲を聴いたりはしていません。

歌いたい。
でも、レコードの音と歌詞が違うから、気持ち悪い。
気持ち悪いけど、何を言っているのかわからない。

もっといえば、対訳も意味不明なものがたくさんありました。
今見ても、どうやるとこんな訳がつけられるのか、驚くようなものが多々あります。
ROCKの場合は、それはそれでカッコイイと感じたものもありましたが、
中学時代などは、つじつまがあわない、意味不明の対訳を解釈しようとするのに、
ものすごくエネルギーを使いました。

さて、想像してください。

インターネットのない時代。
今のようにあちこちで外国人に出会えるような環境もありませんでした。
英語が得意な人もまわりにいない。
こんなとき、どうしますか?
1.あきらめて適当に歌う

これは合理的なチョイスです。
所詮、聴く相手も日本人。
歌う本人がわからないのですから、
ライブなどでちょろっと聴くお客さんには、歌詞があっていようが、
間違えていようが、どうせわかりやしません。

余談ですが、
以前、お客さんとしてライブを見に行ったアメリカ人の歌手に、
「MISUMIも、なにか歌ってよ」と、ステージの上に招かれたことがあります。
「あれ、歌えるよね?」といわれた曲は、もちろんよく知っている曲。
しかし、長いこと歌っていないので、歌詞がうろ覚えでした。
お客さんはネイティブばかり。間違えた歌詞で歌う度胸はありません。

そう告げると、彼はこう言いました。
「絶対に、誰も気づかないから。僕がいうんだから間違いないよ。信じて!」

素晴らしいボーカリストとして日本の業界でもかなり知られていた彼にそういわれ、
何とも不思議な気持ちになったものです。

それで十分と思う人は、たぶん、それでいいのです。

2.徹底的に聴き込み、辞書を駆使して、似た言葉を探す

これが最も時間のかかる、しかし、多くのボーカリストがチャレンジすべきことです。

聴き込むうちに耳が慣れて、だんだんと細かい音が聞き取れるようになってきます。
初めは聞こえなかった細かい子音が、聞こえて来ます。
母音の違いも聞こえるようになります。

辞書をひもとくうちに、さまざまな英語表現が身につきます。
文法などにも詳しくなると、やがて、「こうあるべき」が見えてきます。

聞き取れないことばは発音できない。
発音できないことばは聞き取れない。

こうやって、歌と英語力を徹底的に磨くことで、次のステージにあがれるのです。

3.教えてくれる人を探す

がんばっても、やっぱりわからない、
自分では努力できない、という人には、このチョイスがあります。

教えてもらうなら、きちんと、真面目に取り組んでくれる人にしましょう。
細かい質問につきあってくれる、根気のある外国人か、
2. のように、自分がやるべきことを代わりにやってくれる人。

テキトーな外国人では、目的は果たせません。
歌詞を聴き取るのは、実は、ネイティブでも難しいことが多々あります。
ネイティブ同士が、「あそこの歌詞ってこう聞こえるよね?」「いやいや・・・」と、
揉めている現場を何度も見ました。

2.を代わりにやってくれる人は、ありがたいですが、
その人ばかりがどんどんステージを上げていくのでご用心。

4.歌詞を適当につくる

最後の手段です。

本来、わからない歌詞や、意味の通らない歌詞を歌うことほど、
気持ちの悪いことはないはずです。

それは、たとえば、

「みんな、昨日言った、青い世界でいつか飛んでいくでしょう。」

みたいなことばを感情を入れて伝えることは不可能だからです。

そこで、どうしても意味不明な歌詞は、
自分のことばで、韻やサウンドを壊さないように、書き換えてしまうこともできます。

オリジナルと違っても、そこに自分のリアリティがあれば、
きちんと伝わります。

ちなみに、海外のアーティストがカバー曲を歌う場合、
男性なのに、男性への愛の歌、
女性なのに、女性への愛の歌を歌うことに抵抗があるため、
He と Sheを言い換えたりすることは普通です。

タイトルさえ、「Man」を「Girl」「Her」を「Him」などのように、
変えてしまうこともあります。

そのくらい、ことばのリアリティって重要なのです。

さて、現代人には第5のチョイス、「ググる」があり、
もちろん、最も早く、合理的に、正解率の高い答えに出会えます。

しかし、ネット上で出回っている歌詞にも、間違いはたくさんあります。

いくつものサイトをチェックしても、実はどこかのサイトを元に、
コピー、コピーのコピーという感じで貼られているだけ。

聴き取り間違いだけでなく、スペル間違い、文法間違いなど、
どのサイトを見ても同じ箇所に発見し、がっかりした経験が何度もあります。
つまり正解は、どこにも出ていないのです。

お手軽な正解なんてものはないのですね。

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