「これは私のスタイルじゃないから」
ずいぶん昔のことになります。
とある音楽制作事務所の年末パーティーで、
作詞家だという、
あまりの格好よさと目鼻立ちの美しさに、
ビューティー・コンプレックスの私が思わず二度見してしまうような、
「ザ・いい女」と知り合いました。
なにがカッコいいって、
彼女は自分がどう見えるかをちゃんとわかっていて、
それでいて、
「そんなこと、私にとっては全然重要じゃないのよ」という風に、
クールで、ごく自然に、おまけに華やかに、
振る舞っていたのでした。
私はそういうカッコいい女に会うと、
まず、どかんと打ちのめされて、
次の瞬間、全面降伏のテイで、
「なに、このいい女?
ちょっとぉ〜。カッコいいんだけど。どういうこと?」
という具合に、
真っ向から感動をお伝えします。
すると、まぁ、たいがいの場合、
急速に距離が縮まって、
結構なかよくなったりします。
そんなことを初対面で、
いきなり言い放つ人間が珍しかったのか、
彼女も私に興味を持ったようで、
結局、その後2人でべつのお店に流れ、
とっぷりお互いの仕事のことなどなどを、
おしゃべりすることとなりました。
そのときの彼女のファッションは、
白いブラウスにマニッシュなパンツルック。
正直、パンツルックの女性で、
素敵!と思うような人には、
滅多にお目にかかりませんが、
長身で足長の彼女ならではの着こなしで、
それはそれはキマっておりました。
そんなことを私が思っていたのを見透かすかのように、
彼女はこんな風に言ったのです。
「今日はべつの場所でもパーティーがあって、
ちょっとお堅いカッコしてるわけ。
これは私のスタイルじゃないの。
私はジーンズだから。」
もうね。
完全にやられた〜っと思いました。
「これが私のスタイルだから」と、
自分を語れるカッコよさ。
高級なブランドもの着てますのよ、とか、
流行のファッションに身を包めば安心でしょ?とか、
なんだか一緒にいるこちらが居心地が悪くなるような、
奇抜な服を着ちゃったりとか・・・
まぁ、そんな、イケてない自称ファッショニスタが溢れる中で、
自分自身がなんであるかを明確に語れるカッコよさに、
いやー、しびれました。
音楽も同じだよなと。
あれも素適、
これも感動すると、
さまざまなテイストを身につけて、
なんでも器用にこなしているうちは、
たぶん、まだまだで。
迷いなく、
「これは私のスタイルじゃないから。」
と、言い切れるくらい、
自分を極める。
知り抜く。
自分を愛する。
真のカッコよさは、
そこから生まれるのだなと、
彼女のことばを頭の中で何度も繰り返しながら、
ぼんやりと、考えたものです。
ひとしきり盛り上がって、
さあ、帰ろうか、同じ方向だねと、
お店を出たはいいけれど、
年末の、しかも真夜中の西麻布で、
タクシーなどつかまるわけもありません。
「なんか、ティーンエイジャーみたいに、
アイスとか食べながら歩いちゃうのとかどう?」などと、
彼女が言い出して、
ホブソンズで買ったでっかいアイスを食べながら、
真っ白な息を切らして、
あー苦しい、あー冷たいと、
笑いながら、目黒トンネルをくぐったのは、
もう20年も前のことか。。。
一度だけ、私のライブを見に来てくれて、
いたく感動したわ、という電話をもらっただけで、
あれきり、彼女とは一度も会っていないのだけれど、
今もどこかを、
あのカッコいい姿で闊歩しているのだろうなと、
想像するだに、しびれます。
あんなカッコいい女には、
あぁ、何年生きていてもなれないだろうけど、
せめて、迷いなく「これは私のスタイルじゃないから」と、
言い放てる勇気と潔さだけは、
死ぬまでに絶対身につけて見せようと、
心に誓うのです。
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