大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「興味を持ってもらう」 ただそれだけで、 人はどれほどのエネルギーを受け取れるのか。

   

自主ロックダウンも間もなく40日。
少し前から、インターネットの紹介サービスを利用して、
英語のトレーニングを受けています。

主たる目的は英語でのパブリック・スピーキングのスキルを磨き、
自信をつけること。

友人と語りあうレベルの英語には不自由しませんし、
本や論文もまぁまぁスラスラ読めるので、
自分としては、そこそこ英語力があると自負していました。

そんなわけで、
数え切れないほどいる登録講師の中から、
中上級の生徒が専門という、
人気の英国人講師、ポール(仮名)を選んだのです。

トライアルレッスン当日。

ハンサムなポールは、(もちろん、いつだってルックス重視)
とても優しそうで、知的な雰囲気。
初対面から気さくに話しかけてくれます。

「まずは自己紹介してくれる?
なぜ英語のクラスを受講しようと思ったの?」

OK、えっと・・・あ・・・あれ?

私ときたら、
頭の中が真っ白になっちゃったんです。

ことばが全然出てこない。
っていうか、何を話したらいいか、さっぱり思いつかない。
なにこれ?こんなはずじゃない・・・
焦るほどに、さらに頭の中は空っぽになりました。

あたり前ですが、
コミュニケーションには自信があります。
最近は英語より米語に触れる機会が多かったとはいえ、
昨年も英国にしばし滞在して、
友だちとおしゃべりを楽しんできたばかりだし、
ごくあたり前の会話ができないはずは・・・ない・・・はず。

最後までしどろもどろで終わってしまったトライアルレッスン。
結局、自己診断テストで出ていたレベルよりも、
1ランク下であると告げられ、
自信をつけるはずが、
かえって自信をなくす結果となってしまいました。

くっそぉ〜〜と、
宿題に取り組み、準備をし、
1回、2回とレッスンを重ねても、
相変わらず頭の中は真っ白シロ。

そんな私を見かねたか、
ポールのレッスンは、
とっくの昔に頭に入っているはずの、
文法チェックの繰り返し。

宿題は、英単語、英熟語を毎日10個覚える・・・

 

受験生かよっ!

 

宿題のできも、文法も、
「よくできるね。すばらしいね」などと誉めてくれるけど、
レッスンのたびに自信がなくなる自分に、
だんだん疑問を持ち始めました。

これって、ティーンエイジャーの習う英語じゃない?

私が今やりたいことができるようになるのに、
いや待てよ、10年はかかるでしょ?

 

死ぬわっ!

 

そもそも、英語の原稿を自分で書く必要はないし、
ボイトレに必要のない、ニュース英語に出てくる単語なんか、
覚える必要ないし、
っていうか、ポールったら、
要は自分の教えたいことを教えているだけじゃないっ!!

でもって、ポールは、
私の英語を品定めするように会話するから、
私は間違えをおかしちゃいけないと、
ひたすら緊張して、
おかげで頭真っ白になって、
本来できることも全くできなくなっちゃうんじゃないのっ!!!

 

これを日本語で「本末転倒」と言います。(解説)

 

そんなことを、レッスン5回受けて、
やっと悟った鈍くさい私は、
今日、新たな英国人の先生と、
トライアルレッスンをしたのでした。

はじめて顔を合わせたと思えないくらい、
懐かしい雰囲気の、にこやかな女性、S.W。

画面にS.Wの顔が映ったとたん、

あら、不思議。
もう、びっくりするくらい、
スラスラことばが出てくるんですよ。

お互いに、しゃべりにしゃべった1時間。

画面を閉じて、
あぁ、そういうことかと、腑に落ちました。

 

S.Wは、ものすごく私に興味を示してくれた。
私の英語力ではなく、「私に」です。

「興味を持ってもらう」
ただそれだけで、
人はどれほどのエネルギーを受け取れるのか。

彼女は、私の話を聞きたいと思っている。
ネット越しの彼女の表情で、それが痛いほどわかりました。

「自分が話したいことを話すのではなく、
相手の聴きたいことを話すのだ。」

MTLインストラクターたちに、
嫌というほどたたき込んできたことばです。

 

S.Wは今日、こんな風に言っていました。
「インストラクターは、
グラマーを教える仕事でも、
間違いを正す仕事でもなく、
人の心を扱う仕事なのよ。」

 

まだまだ学ぶことは尽きません。

がんばりますよ。

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