「なんでも歌える」と言わない勇気
「どんなの歌ってるんですか?」
どんなちっちゃなご縁も仕事に繋げようと躍起になっていた頃、
そう聞かれると、必ず、
「なんでも歌えるんですけど」と前置きしてから、
「R&Bとか、ロックとか・・・ダンスものなんかも歌います。」
などと、答えていました。
「なんでも歌える」と言えば、
お仕事にも、セッションにも、誘ってもらえる機会が増える、
可能性が広がると思っていたからです。
あるとき、アーティストとしてお世話になることになった事務所の社長に、
こんな風に言われました。
「で、MISUMIは、何がやりたいの?
このままじゃ、ただの、歌のうまいおねえさんで終わっちゃうよ。」
頭から水をぶっかけられたような思いでした。
便利屋みたいにスタジオやって、
思いつくままにいろんなスタイルで曲を書いて。
なんでもできるってことは、
なんにも秀でてないってこととおなじなんだ。
人はなんでも歌える人の歌が聞きたいわけじゃない。
あたしは「これ」やってます!と腹をくくった人だけが、
道を究めることができる。
人の心を動かすことができる。
職業ミュージシャンになりたいわけじゃないと思い続けてきたはずなのに、
いつの間にか、どっぷり仕事人になっていた自分に気づかされました。
それから、しばしの自分探しの苦悶の日々を経て、
自分はやっぱりロックだ、
ロックがやりたくて、歌っているんだ、ということが、
少しずつ、そして、決定的に腑に落ちたのです。
正直、当初、「何を歌っているんですか?」と聞かれて、
「ロックです」ときっぱり答えるのは勇気がいりました。
お仕事、減るだろうなぁ。それも仕方ないよなぁ。
そう覚悟しました。
しかし、です。
結果は、真逆でした。
お仕事が、増えたのです。
どこにでもいる「なんでも歌える誰か」じゃなく、
「ロックと言えば、あの人」と、
はじめて、わかりやすいタグがついたのでしょう。
ロックという言葉が出るたびに、
名前を思い出してもらえるようになりました。
苦手なタイプのお仕事も減りました。
これが、アーティストとして、職業ミュージシャンとして、
キャリアの大きな転機となったのです。
戦略とは、なにをやらないかを決めること。
いわゆる「すけべえ根性」は
バサッと切り捨てるからこそ、
得意なこと、やるべきことに完全集中できる。
勇気と覚悟はいつだって、
道を切り開いてくれる力です。

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