大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「なんでも歌える」と言わない勇気

   

「どんなの歌ってるんですか?」

どんなちっちゃなご縁も仕事に繋げようと躍起になっていた頃、
そう聞かれると、必ず、
「なんでも歌えるんですけど」と前置きしてから、
「R&Bとか、ロックとか・・・ダンスものなんかも歌います。」
などと、答えていました。

「なんでも歌える」と言えば、
お仕事にも、セッションにも、誘ってもらえる機会が増える、
可能性が広がると思っていたからです。

 

あるとき、アーティストとしてお世話になることになった事務所の社長に、
こんな風に言われました。

「で、MISUMIは、何がやりたいの?
このままじゃ、ただの、歌のうまいおねえさんで終わっちゃうよ。」

頭から水をぶっかけられたような思いでした。

便利屋みたいにスタジオやって、
思いつくままにいろんなスタイルで曲を書いて。

なんでもできるってことは、
なんにも秀でてないってこととおなじなんだ。

人はなんでも歌える人の歌が聞きたいわけじゃない。
あたしは「これ」やってます!と腹をくくった人だけが、
道を究めることができる。
人の心を動かすことができる。

職業ミュージシャンになりたいわけじゃないと思い続けてきたはずなのに、
いつの間にか、どっぷり仕事人になっていた自分に気づかされました。

 

それから、しばしの自分探しの苦悶の日々を経て、

自分はやっぱりロックだ、
ロックがやりたくて、歌っているんだ、ということが、
少しずつ、そして、決定的に腑に落ちたのです。

 

正直、当初、「何を歌っているんですか?」と聞かれて、
「ロックです」ときっぱり答えるのは勇気がいりました。

お仕事、減るだろうなぁ。それも仕方ないよなぁ。
そう覚悟しました。

しかし、です。

結果は、真逆でした。
お仕事が、増えたのです。

 

どこにでもいる「なんでも歌える誰か」じゃなく、
「ロックと言えば、あの人」と、
はじめて、わかりやすいタグがついたのでしょう。

ロックという言葉が出るたびに、
名前を思い出してもらえるようになりました。
苦手なタイプのお仕事も減りました。

これが、アーティストとして、職業ミュージシャンとして、
キャリアの大きな転機となったのです。

戦略とは、なにをやらないかを決めること。

いわゆる「すけべえ根性」は
バサッと切り捨てるからこそ、
得意なこと、やるべきことに完全集中できる。

勇気と覚悟はいつだって、
道を切り開いてくれる力です。

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