音楽には「顔」がある。「オケと歌」、じゃないんです。
楽器の人たちと話していると、
演奏中、ヴォーカリストとは全然違う視点で
ステージに立っていることがわかって、
驚くことしばしばです。
いろいろなタイプがいるでしょうし、
あくまでも、持論ですが、
ヴォーカリストは、
ステージの一番前のど真ん中、
オーディエンスと一番近い位置に立って、
演奏全体、ライブハウス全体の、
大きなエネルギーを回している、
いわば、エネルギージェネレーターというか、
イタコ的存在。
そういう意味では、
演奏に後押しされて、
徹底的に「自分の世界」に集中し、
そこに周囲を巻き込んでいくことがお仕事。
だから、ヴォーカリストは、
ドカンと自分の世界に入り込む、
集中力が試されるようなところがあります。
しかし、ステージ上のプレイヤーがみんなそんな人たちの集まりだったら、
演奏は無法地帯のようになってしまうに違いありません。
ステージで盛り上がって、エネルギーをガーッと回して、
「今日も歌ったった〜!」とばかり、
気持ちよく楽屋に戻ると、
冷静そのもののメンバーの顔に出会って、拍子抜けします。
「あそこ、ちょっと構成違ったね。」
「あの曲、全体的に、前にいっちゃったよね?」
「テンポ、どうだった?」
「ソロがイマイチ、いいフレーズ出なくてさ。」
などなど、
汗びっしょりで、肩で息をしている私の傍らで、
冷静沈着にプレイを振り返るメンバーたち。。。
こちとら、
「キミ、あそこ、間違えたでしょ?」
と言われても、
なんのことやらさっぱりわからないこと、しばしばです。
もちろん、みんな楽しんでいないわけでも、
盛り上がっていないわけでもありません。
ただ、プレイヤーそれぞれの脳は、
全然違う動きをしているようなのです。
たとえば、ドラマー。
とあるベテランドラマーは、
「大きなホールツアーで、何がプレッシャーだって、”テンポ出し”なんだよね」と、
言っていたっけ。
演奏が盛り上がって、
どんどんテンポが前のめりになるメンバーの、
気持ちよさをくみ取りながら、
絶妙なテンポをキープする。
もちろん、どんな時でも、
グルーヴがいいのは当たり前。
そんな、全体のタイムキーパーを務めながら、
気持ちいいおかずを入れたり、
仕掛けを入れたり。
完全に想像を超える世界です。
たとえば、ベーシスト。
演奏のグルーヴの要です。
もうね。あの楽器は、本当に渋い。
どーんと、「まかせなさい」と支えてくれる。
ぐいぐいと、グルーヴを引っ張ってくれる。
それでいて、悪目立ちしない。
いやー。海のような存在ですよ。
ベースがダメだと、演奏は全然ダメになっちゃう。
すごい存在感です。
例えば、キーボード。
こんなにヴォーカルに寄り添ってくれる楽器はないでしょう。
歌いやすいヴォイシングにしてくれる。
音で、包み込んでくれたり、リードしてくれたり。
サウンド面で、一番人の声と近いところにある楽器だからこそ、
キーボーディストの存在は、
本当に心強いものがあります。
最後はギターリスト。
ギターリストは、
ヴォーカリストと最も立ち位置が近い楽器だと感じています。
ヴォーカリストと同じくらい、
ガーッと世界観を出す人もたくさんいるし、
まぁ、”フロント意識”は高いでしょう。
しかし、そこはプレイヤー。
複雑な機械をあーでもないこーでもないといじったり、
演奏全体を俯瞰して、
リーダーシップを発揮したり。
ヴォーカリストと比べると、
まぁ圧倒的に冷静にステージにいるようです。
私たちが学生の頃は、
歌いたければバンドをやるしかありませんでした。
いろんな人と、いろんなバンドをやるうちに、
それぞれの楽器の特性も理解できたし、
人間関係のおもしろさや難しさを学びました。
カラオケ文化が主流になり、
トラックをひとりで制作することも可能になった世の中。
ついつい「オケと歌」のように考えがちな、
ヴォーカリストは多いようですが、
演奏には、人間の「顔」がある。
いや、あって欲しい。
難しいこと、大変なこともたくさんあるけど、
やっぱりもっともっと、
たくさんの人と関わって、
顔のある音楽を体験して欲しいと思うのです。

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