言わなくていいこと。言うべきこと。
言わなくてもいいことを、
「これはあなたのためだから」と、
上から言う人がいます。
若い頃はそんな人たちのおことばを素直に頂戴し、
泣きながら家に帰っては何ヶ月も落ちこんだものです。
言われる自分が悪いのだと。
言われて悔しいのは、
自分の気持ちに引っかかるところがあるからなのだと。
ぐるぐる考えては、解決策を探し、
出口がみつからずにまた落ちこんで、
そのままどんどん自己嫌悪にはまっていく。
確かにいただいたことばの数々は、
的を得ているときも多く、
そのことばたちが、自分自身を鞭打って、
前に進むエネルギーをくれたかもしれません。
しかし、それでもなお、
あれは本当に言われる必要があったことばなのかと、
何年経っても思い返しては、首をかしげます。
長い間トラウマのようにこびりつき、
胸を苦しめられたことばたち。
あのタイミングで言われなくてはいけなかったのか。
もっと他に言い方はなかったのか。
そもそも、あの人は、
あれを本当に私のために言ってくれたのだろうか?
大切なのは、何を言うかよりも、どう言うか。
明らかに相手を傷つけるとわかっていることを告げるときは、
ことばを選び、タイミングに細心の注意を払って、
愛を持って伝えたい。
情報の価値は受け手が決めるものですから、
「あなたのために」ということばは、
けして免罪符になりません。
本当に相手のためを思うなら、
上からことばを投げつけるのではなく、
相手に寄り添って、丁寧に伝えたい。
解決策もあわせてアドバイスしたい。
どんなことばも、
上下関係をはっきりさせるためや、
自分の観察眼や能力を見せつけるために発せられれば、
単なるいやらしい悪口にしかならなくて。
そんなことを言う人ほど、
ああ、すっきりした。
ずっと言いたかった。
こんなことをハッキリ言ってあげるのは、
自分くらいだからね。
・・・などと、
言われた相手の気持ちも考えず、
自分ばかりがいい気持ちになっているものです。
ああ、余計なお世話。
そんなことばを発する人を、
デリカシーのない人と呼ぶのですね。
さて。
人を指導する立場になって、
告げるべきことを告げるときのことば選び、
タイミングには、
ことさら注意を払うようになりました。
どれほど相手のためになることであっても、
どんなタイミングで、
どんなことばで告げたとしても、
それは相手を傷つけることばであることに変わりはない。
しかし、
言いにくいことを伝えるのは、
指導者の仕事です。
そこから逃げていたのでは、
けして相手の成長を助けることはできません。
だからこそ、
伝える前に何度も自問自答したいこと。
・これは彼が(彼女が)解決できることだろうか?
・彼は(彼女は)今、このことばを受け止められる状態にあるか?
・どんなことばを選べば、誤解されず正しく彼に(彼女に)伝わるか?
・自分はその解決策を彼に(彼女に)きちんとアドバイスできるのか?
・自分にはどんなサポートができるのか?
私自身、不用意にいらんことを言ったり、
気づかぬうちにデリカシーのないことを言ってしまうことも、
しばしばあります。
いや、気づいているときはまだマシで、
言ったことに気づかないときも多々あるでしょう。
そんな不完全な自分だからこそ、
心に刻みつけたい。
一生が修行です。
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