BPM1目盛りの職人芸
BPMということばが普通に使われるようになったのは、
いつの頃からかわかりませんが、
最近は「テンポはどのくらい?」と聞くと、
いちいち「BPM120くらいです」と答える若者が結構いるので、
どうやら、そうやって厳密に言うのがトレンドのようです。
ちなみに、ちょっと古めの私は、
密かに「BPM」をググって確認してから、
この記事を書いています(^^)
BPMというのは、メトロノームで言うなら、
1分間に何拍「カッカッカ」と刻むかという数字。
時計の秒針の「カッチカッチ」は、
すなわちBPM60です。
健康な成人の心拍数の平均は60〜70ですから、
時計の秒針よりもやーや速いテンポを刻んでいることになります。
この心拍数は、環境の影響を受けて、
速くなったり遅くなったりする。
BPMの速い曲を聴くと、興奮するのは、
心拍数が曲のテンポに同調して上がっていくからなんですね。
だからリラックスしたいときは、
ゆったりとしたテンポの曲を聴くのがいいわけです。
さて。
このBPM、1〜2くらい数字が違っても、
どうってことないんじゃない?と思いませんか?
だって、1分間で秒針が59回打つスピードと、
61回打つスピードの差って、本当に微差。
しかし、人間の感覚はここが面白いんですが、
ヴォーカルをやっていると、
このBPMの1〜2の差が、
ものすごく歌いやすさを左右するときがあるのです。
バンドとリハーサルをしていて、なんか歌いにくくて、
「あれー? 速くない?」と演奏を止めると、
多くのプロのドラマーはすかさずメーターで、
たった今演奏していた曲のテンポを調べます。
「いや。いつもと一緒だよ。」
ドラマーの中には、
もう「あなた、メーター?」くらい、
テンポのゆれない人や、
カラダにBPM入っちゃってる人もいます。
「あ、そうですか。
なんか、すっごい速く感じちゃって・・・」
こんなとき、
イケてるドラマーさんはこう言うのです。
「じゃ、2くらいさげようか?」
この「2くらい」で、
気持ちよさはガラッと変わります。
聞いている人が気づくのかどうかは、
正直わかりません。
でも、歌っている人間が心地いいんですから、
歌のパフォーマンスは確実によくなっているはずです。
ヴォーカリストにとっての、
いや、演奏家にとっての
「気持ちいいテンポ」「正しいテンポ」は、
いつも同じとは限りません。
毎日、微妙に違う。
その瞬間、瞬間、ちょいちょい違う。
おそらくは、心拍数に影響されて。
もしくは、脳内物質に。
または、その前に演奏していた曲に影響されて。
何十回、何百回と歌っている曲が、
「あーー、遅いっ!」ともやもやしたり、
「速っ!」と焦ったり。
多くのシンガー、特にジャズ系の方が、
歌う前に自分で演奏のテンポを出したりするのは、
そういうわけなんです。
つまり、「今の私の気分BPM」です。
ところが、ロックやポップスのような、
演奏主体の音楽をやっていて、
いちいちヴォーカリストの「今の私の気分BPM」で歌われたのでは、
たまりません。
ぞーーんと重く演奏したいのに「軽ぅ〜っ!」となったり、
スピード感出して行きたいのに、妙にもたついたり、
聞き手も、演奏者も、
ずっこけるような演奏になっちゃうことも、
まぁ、よくあります。
だから、ドラマーさんが大活躍するんですね。
「わかってるなー」というドラマーさんは、
リハでわがまま言って、テンポ落としてもらった曲でも、
本番、こちらの様子を見て、
こっそり元のテンポでカウント出したりします。
歌っているこちらは、
ライブ本番、がんがんアドレナリン出てくると、
どんどん、前に前にとリズムが走りたくなるときがある。
だから、むしろ、速めくらいで丁度よく感じるわけです。
そこを見極めて、テンポを微調整してくれる。
時に、まだまだそこで行き切っちゃダメだよと、
こちらのはやる気持ちを押さえてくれたり、
反対に、ガーッと煽ってくれたり。
ヴォーカリストのパフォーマンスは、
そんな、BPM1目盛りの職人芸に支えられているんですね。
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