みんな勝手なこといいやがる。
今でこそ、プロアマ、セミプロ問わず、
「アーティスト」なんて、
定義のふわっとした、
聞こえのいいことばがありますが、
かつては、歌手とシンガーソングライターくらいしか、
呼び方はなかったように記憶しています。
そこに、プロだの、アマだの、流行だの、アイドルだの、人気だの、売れないだの、
適当な形容詞のようなものがくっついていた。
少なくとも、私の記憶の中ではそんな感じです。
世間の人たちには「プロになる」イコール、
「テレビに出る」って考えていたくらい、
テレビの影響力が大きかった時代。
テレビをつければ、
聖子ちゃんだの、ユーミンだの、
達郎さんだの、
爽やかで耳障りのいい音楽ばかりが流れてきます。
ツェッペリンが好きで、ジェフ・ベックが好きで、
チャカやアレサやジャニスを完コピしているような、
いわば、変わりものの女子大生だった私にとって、
音楽のプロへの道は、あまりにも非現実的で、
すべての扉が完全に閉ざされているように感じられました。
まわりの人は口を開けば、
「就職しないで、どうするの?」
「早くお嫁さんにでもなった方がいいよ」
「その顔じゃ、テレビは無理でしょ」
なんて、言いやがる。
自分が追いかけている音楽と、
世の中で認められる音楽の間の、
とんでもない溝。
考えても考えても答えは出ないから、
とにもかくにも、
誰にも文句を言わせないくらい、
とんでもなくうまくなるしかないと、
心から信じていました。
なんと言っても、
「できない気がしない」という恐ろしい病に取り憑かれ、
その感覚が去ってくれないことが、また恨めしく・・・。
完コピしている時は、
そんな閉塞感をすべて忘れられたから、
なおさらハマったのかもしれません。
卒業してはじめてつくった自分のバンドで、
ライブをしたときのこと。
ライブが終わってすぐに、
ライブハウスの社長に呼び出されました。
「君のバンド、面白いね」。
まだおとなを信じていなかった頃。
不安と不信に満ちた気持ちで話の続きに耳を傾ける私に、
社長は私が一番恐れていた一言をいいました。
「オリジナル、ないの?」
今どきオリジナル曲がないようなバンドはダメだ。
売れないし、売れてもお金にならない。
とにかく曲を書け。
そんな風に言われたことで、
恐る恐る、曲を書き始めました。
以前書いたので、ここでは割愛しますが(長くなっちゃうしね)、
作曲には小学校時代からの酷いトラウマがありましたから、
とにかくできる曲、できる曲、全然自信が持てない。
それでも、だんだん面白い曲書くねとか、
不思議なメロだね、なんて言われるうちに、
調子が出て、
やがて、暇さえあれば曲を考えているようになりました。
機材を買いそろえて、
簡単なアレンジもできるようになって、
歌やコーラスをたくさん重ねて、
アルバムのていで、8曲くらい録音したカセットテープを、
いろんな人に配ったりするようにもなりました。
すべてを自分で手がけたカセットは、
いろんな人の手に渡って、
レコーディングの仕事に呼んでもらうきっかけとなりました。
アレンジや作曲やエンジニアリングを一緒にやってくれるひとが現れて、
いろいろな人とユニットをつくって・・・
あぁ、一体全体何十曲(いや、もっとか)つくったんでしょう。
自分が生み出した曲は、みんな好きでした。
聞いてくれたミュージシャン仲間は、
口々に「かっこいいね」「すごいね」と言ってくれました。
しかし、音楽業界の人たちの言うことは全然違いました。
英語の歌詞じゃダメだから、日本語書いて。
なんか洋楽っぽすぎて、難しいね。
仕事で歌ってもらっているときの方が、いい声出てるんじゃない?
で、なにやりたいの?
・・・ってか、君、いくつ?
「売れないミュージシャン」以前です。
「売ってくれないミュージシャン」でした。
お店に並ばないものは、売れるわけもない。
そもそも、戦力外通告をされたようなものです。
インターネットどころか、
インディーズということばすらも一般的でなかった時代。
イカ天なんてテレビ番組よりも前でした。
言われれば言われるほど、わからなくなったのは、
私って売れたいのかな?
っていうか、売れるってなに?
売れないと、なんか問題あるの?
好きじゃないものつくって、売れて、なにが幸せなの?
・・・つづく。
こういう話をこんな風に書いたことはなかったんで、書き出すと止まりません。
あんまり長くなりそうなので、続きはまた次回。
関係ない人には全然関係ない話で恐縮ですが、こうなったら徹底的に書きます。
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