よき時代のよきものを、 いい形で後世に伝える方法
高校時代、何が嫌いって「古文」の授業くらい
嫌いな授業はありませんでした。
使わなくなった言語を学ぶ意味はわからなかったし、
「日本人として」とか、
「温故知新」とか言われても、死語は死語。
古文には未来も可能性も感じませんでした。
大学生になって、
突然シェイクスピアの戯曲に傾倒し、
翻訳本を読み倒しました。
やや古風な日本語で書かれた、
『マクベス』や『リア王』や『ハムレット』は、
もうそれはそれは美しく、
ロマンにあふれた、胸躍る物語ばかりでした。
これは、やはり原語で読まなくちゃと、
当時ペイパーバックを読み始めたばかりだった私は、
大学の図書館で、果敢にも、
原語版の『ベニスの商人』を借りました。
『ベニスの商人』は、
中学時代所属した英会話部の文化祭公演で演じたこともあったため、
登場人物の名前も、あらすじもすべて頭に入っていたので、
スタートアップとしては丁度いいのではないかと思ったのです。
ところが、原書のページを開くなり、
ひっくり返りそうになりました。
わ・・・わからん。。。
見たこともないような単語のオンパレードの上に、
古典だからなのか、韻を踏むためなのか、
文法もなにもわかったもんじゃありません。
その刹那、古文の先生が愛おしげに唱えていた
あり おり はべり いまそかり
が、脳裏に蘇り、
あーー。
文法だの、単語の意味だの、
そんなディテールじゃなくって、
ワクワク胸躍る戯曲や小説として、
『源氏物語』や『平家物語』に出会っていたら、
あたしだって、もうちょっとまじめに古文、やったかもな、と、
思ってしまったものでした。
古典文学の漫画化というのも、
そういう意味では、ひとつの手であります。
音楽もしかり。
最近の若者が、いきなり「この曲やりたいんです」と、
アレサ・フランクリンや、
シンディー・ローパーを持ってくるので、
「今さら、なんでこんな古い曲?」と聞いてみると、
「”Glee”で歌ってたんです」と言われることしばしば。
おとうさんやおかあさんのCD棚をひっくり返すことはなくても、
テレビで若者が、今風のサウンドで、楽しそうに歌っていると、
急に「自分へのメッセージ」と感じるようになる。
オリジナルのサウンドや、
パフォーマーのテイストを残しつつ、
若者たちに伝わるような新しい表現に変えて行くことで、
埃をかぶって忘れ去られる運命の「古典」が、
鮮やかに現代に蘇る。
だんだんと「生きる古典」に近づいている私たちも、
頭を柔らかくすることで、
よき時代のよき音楽を、
いい形で後世に伝えることができるのかもな、
などと、考える今日この頃です。
昨年ロンドンで、
ついにシェイクスピアの聖地、
グローブ座に行くことができました。
グローブ座でシェイクスピアの演劇を見るのは、
若かりし頃からの夢。
古典英語、わかるかな?
雰囲気を味わうだけでも、いいわよね。
ドキドキ、ワクワクしながら、劇場に向かいました。
演目は、『真夏の夜の夢』。
大好きな喜劇です。
いかした妖精パックが登場して、
恋する人たちを引っかき回す洒落た物語。
どんなパックが登場するのか。
みんなどんな衣装に身を包んで、
どんな表情で、
あの詩的なセリフを語るのか。。。
そんな私のワクワクは、
ステージがはじまった瞬間に見事に裏切られました。
謎の現代劇になっちゃってるのです。
夢にまで見た、あの美しいシェイクスピアの世界はどこにもありません。
完全にエンターテインメントです。
どうりで家族連れでいっぱい。
こどもたちもゲラゲラ笑いながら見ています。
セリフも、子供や観光客にもわかるくらい平易なもの。
正直、個人的にはガッカリしましたが、
これが連日家族連れで大賑わいの秘密かと、
妙に関心したり、
あの難解な古典英語の戯曲も、
きっとシェイクスピアの時代には、
こんな風に庶民がゲラゲラ笑いながら見る、
普通の演劇の台本だったんだよなと、納得したり。
現代の人間にもわかりやすく「翻訳」することで、
古典は新しい命を授かる一方で、
確実に、大切な何かを失っていく。
それが「時代」というものなのかも知れません。
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