本質で語れ!
ヴォーカリスト、作詞家、歌の先生とキャリアを重ねて、
なかなかの「いいお年」になってから
起業と出版という新しい分野に丸腰で飛び込んだ時、
真っ先に考えたのは、
どうやったら、「らしく」見せられるか、ということでした。
派手で、目立って、カッコよくって、ロックっぽければOKとされた世界から、
いきなり、スーツとブランドに囲まれたハイクオリティの世界へ。
薄暗いスタジオやライブ会場、レッスン室といった、
閉じられた現場でばかり仕事をしてきた人間にとって、
真っ昼間、蛍光灯の灯りの下で
スーツ姿の人たちと名刺交換をすることは、
ただそれだけで、冷や汗の出るような、
心臓バクバクの経験でした。
何を着たらいいかわからない。
どんなことばで、どんな態度で、
発言をしたらいいかわからない。
存在感は示したいけど、悪目立ちはしたくない。。。
はじめて、ビジネス向けのセミナーをした時も、
「わたくし」、「みなさま」、「弊社」、「ごらんください」
「よろしいでしょうか」・・・という、
ごく基本的なことばさえ、
考え考えでないと口から出てこない状態でした。
やがて、少しずつ、
社会人らしい言動に馴染みはじめた頃のこと。
セミナーの最中、無意識に、
「ちょっとボーイズっ!もっとお腹つかって声出してっ!」と、
あろうことか、「ボーイズ」を指さして、
檄を飛ばしてしまったのです。
刹那、「しまった!」と冷や汗が出ました。
せっかく、ここまで、お行儀よくしてきたのに、
一瞬で、全部台無しです。
ジョークでも言ってごまかさなくちゃ・・・
と恐る恐る目を上げると、
「ボーイズ」は、それまでに増して、
嬉しそうな表情になり、
声の集中力もぐっと増したのです。
終了後のアンケートでも、
その時のエクササイズが、
もっとも楽しく、腑に落ちたとおっしゃる。
表面を取り繕って、
化けた気になっていたのは私だけでした。
人は最初から、「本質」を見ている。
その「本質」に興味を持って、集まってくださる。
左手に右手を重ねて「みなさま、よろしいでしょうか?」
と、気取って言おうが、
ば〜っと指をさして、「ボーイズ、わかるわよね?」
と、ロックっぽく言おうが、
本質はなにも変わらない。
人というものを、甘く見てはいけない。
自分のエネルギーが最大に発揮できる表現なら、
必ず伝わるのだ。
そんなことを学んだ日でした。
どう見せたい、
どう見られたくないを考えることは、
人にものを伝える仕事をする以上、
必要不可欠なことです。
でもね。
本質を磨く努力なしに、
表面ばかり取り繕っても、
伝える力は磨かれません。
上手な文章、
上手なスピーチ、
上手な歌・・・。
目指しているのは、そこじゃない。
自分を極めることと、
取り繕うことはまったく違う事なのだと。
表現に迷うたびに、
思い出したい、大事なできごとです。
◆“MTL ヴォイストレーナーズ・メソッド” 開講します!
業界トップクラスのメソッドで、圧倒的な結果を出す。ヴォイストレーナーとして活躍されている方はもちろん、ヴォイストレーナーを目指す方、トレーナーという仕事に興味があるという方も。
関連記事
-
-
テクノロジーは「交通手段」のように 付き合う。
歌を志した21〜22才くらいから、 周囲のおとなミュージシャンたちのオススメに素 …
-
-
「あと一周」のベルが、まだ聞こえない。
出版に向けラストスパートに入りました。 え?まだスパートかけるの?という街の声が …
-
-
「モラハラ」に負けない思考法
「ブスが話しかけるんじゃね〜よ!」 さまざまなハラスメントの標的になっていた、か …
-
-
声を伝えるのに必要なのは「デリカシー」。「気合い」じゃないんですよ。
音の波形ってみたことありますか? 音は空気の振動。 特殊な装置をつかうと、 その …
-
-
自分のリソースを「棚卸し」してみる
前か、後ろか、はたまた上か・・・ 先が見えなくて、身動きが取れないときは、 自分 …
-
-
ワードを変えれば、自分が変わる
有名な心理学の実験で、 「スタンフォード監獄実験」というのがあります。 ごく普通 …
-
-
レコーディングでうまく歌えない原因と対処法。
先日メルマガのお便りフォームに、下記のような質問をいただきました。 (一部プライ …
-
-
「人に頼れない」という「あかん」を返上するのだ!
こどもの頃から、一匹狼というか、(こんな顔なんで、一匹タヌキを自負しているわけで …
-
-
声の変化と向き合う vol.2〜変化を受け入れ、味わい、楽しんだものが勝ち
「声の老化」についての第2回です。 第1回は、年齢を免罪符にせず、 …
-
-
「声」は自分で選ぶ。〜Singer’s Tips #8〜
「●●みたいな音楽やりたいんですけど、声質が向いてなくて」 「△△さんみたいに歌 …