大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

本質で語れ!

   

ヴォーカリスト、作詞家、歌の先生とキャリアを重ねて、
なかなかの「いいお年」になってから
起業と出版という新しい分野に丸腰で飛び込んだ時、
真っ先に考えたのは、
どうやったら、「らしく」見せられるか、ということでした。

派手で、目立って、カッコよくって、ロックっぽければOKとされた世界から、
いきなり、スーツとブランドに囲まれたハイクオリティの世界へ。

薄暗いスタジオやライブ会場、レッスン室といった、
閉じられた現場でばかり仕事をしてきた人間にとって、

真っ昼間、蛍光灯の灯りの下で
スーツ姿の人たちと名刺交換をすることは、
ただそれだけで、冷や汗の出るような、
心臓バクバクの経験でした。

何を着たらいいかわからない。
どんなことばで、どんな態度で、
発言をしたらいいかわからない。
存在感は示したいけど、悪目立ちはしたくない。。。

はじめて、ビジネス向けのセミナーをした時も、
「わたくし」、「みなさま」、「弊社」、「ごらんください」
「よろしいでしょうか」・・・という、
ごく基本的なことばさえ、
考え考えでないと口から出てこない状態でした。

やがて、少しずつ、
社会人らしい言動に馴染みはじめた頃のこと。

セミナーの最中、無意識に、
「ちょっとボーイズっ!もっとお腹つかって声出してっ!」と、
あろうことか、「ボーイズ」を指さして、
檄を飛ばしてしまったのです。

刹那、「しまった!」と冷や汗が出ました。
せっかく、ここまで、お行儀よくしてきたのに、
一瞬で、全部台無しです。

ジョークでも言ってごまかさなくちゃ・・・
と恐る恐る目を上げると、

「ボーイズ」は、それまでに増して、
嬉しそうな表情になり、
声の集中力もぐっと増したのです。

終了後のアンケートでも、
その時のエクササイズが、
もっとも楽しく、腑に落ちたとおっしゃる。

表面を取り繕って、
化けた気になっていたのは私だけでした。

人は最初から、「本質」を見ている。
その「本質」に興味を持って、集まってくださる。

左手に右手を重ねて「みなさま、よろしいでしょうか?」
と、気取って言おうが、
ば〜っと指をさして、「ボーイズ、わかるわよね?」
と、ロックっぽく言おうが、

本質はなにも変わらない。
人というものを、甘く見てはいけない。

自分のエネルギーが最大に発揮できる表現なら、
必ず伝わるのだ。

そんなことを学んだ日でした。

どう見せたい、
どう見られたくないを考えることは、
人にものを伝える仕事をする以上、
必要不可欠なことです。

でもね。

本質を磨く努力なしに、
表面ばかり取り繕っても、
伝える力は磨かれません。

上手な文章、
上手なスピーチ、
上手な歌・・・。
目指しているのは、そこじゃない。

自分を極めることと、
取り繕うことはまったく違う事なのだと。

表現に迷うたびに、
思い出したい、大事なできごとです。


“MTL ヴォイストレーナーズ・メソッド” 開講します!
業界トップクラスのメソッドで、圧倒的な結果を出す。ヴォイストレーナーとして活躍されている方はもちろん、ヴォイストレーナーを目指す方、トレーナーという仕事に興味があるという方も。

 - B面Blog, Life, ビジネスヴォイス

  関連記事

音楽は進化を続けている

「最近どんなの聞いてるの?」 若いアーティストたちのカウンセリングで、 彼らの好 …

「ひどいことを言われた」と感じたときこそがチャンス

20代の前半で、当時10才前後先輩だったプロフェッショナルの先輩たちに、 それは …

「らしさ」の延長にしか、成功はない

歌の道でプロを目指そうと心に決めたのは、たぶん、20才くらいの時。 ピアノもダメ …

ニッポンの女子力!

今日は、Show-Yaがプロデュースする、”Naon No Yaon …

「これは私のスタイルじゃないから」

ずいぶん昔のことになります。 とある音楽制作事務所の年末パーティーで、 作詞家だ …

うるさぁあああいっ!

数件先に、小さな公園があるせいか、 それとも、徒歩3分ほどのところに小学校がある …

わかりやすくうまい人 vs. さりげなくうまい人

「歌のうまい人」には2種類います。 ビヨンセやホイットニーやアギレラみたいに、 …

バイブレーション

人は同調し合うもの。 長いこと一緒にいると、しぐさや話し方、果ては声まで似てくる …

理解できない相手がクソなのか、させられない自分がダメなのか。

誰にも歌を認めてもらえず、 今日辞めようか、 明日ちゃんとした就職先を探そうかと …

自分が生きてきた時間を過小評価しない。

誰にでも、自分が取るに足らないと感じるときはあるものです。 傍からは、順風満帆に …