スポットライト
大学3年の時、18段変速の自転車を手に入れました。
舗道でも、車道でも、山道でも、南の島でも・・・
自分は電車だの車だの、そんな檻に閉じ込められない、
自由でパワフルな存在なのだと、
全身で風を感じながら、いい気になって走り回っていた時期があります。
さて。
20代の半ば過ぎになって、リハーサルに、スタジオにと、
仕事終わりが夜中を過ぎるのが当たり前の毎日になり、
必要に迫られて、運転免許を取得し、車を手に入れました。
車を運転するようになって、真っ先に感じたこと。
「自転車、あぶない。。。」
そう。
あんなに自由で、鳥になった気分で、
第一京浜だの、山手通りだのをカッ飛んでいたはずなのに、
運転席から見た自転車は、やたら遅い上に、動きが不安定。
目の前で転ばれたら・・・
すれ違いざま、フラッとよろけられたら・・・
そうした自転車を追い抜く車は、みな大きく膨らんで、
最徐行をしています。
あぁ、そんな運転者の気持ちを知るよしもなく、
今、まさに、この瞬間、
あの自転車に乗っている彼も、彼女も、
鳥になった気分で自由を謳歌しているのかしらん。
ご迷惑をかけてきた運転手の方々を思い、
そして、酷く運動音痴で、
これまでの人生でいらぬケガばかりしてきた自分を思い、
よくぞ自転車ライフを無傷で生きのびたと、肝が冷えたものです。
まだ駆け出しの頃。
とあるアーティストのホール・ツアーのサポートで、
メンバー紹介の際にコーラス・ソロをすることになりました。
本番だったか、ゲネプロだったか、
歌い出した瞬間に、向けられたスポットライトの光の量の衝撃に、
一瞬めまいを覚えました。
「こんな光の中に、この人たちはいるんだ。」
メインアーティストを甘く見ていたわけではけしてありません。
それでも、その瞬間、
たとえ、同じ時間、同じ大きさのステージに立っていても、
光の中に立っている彼らと、
その傍らに立っている自分では、
見ているものも、感じているものも、全然違う。
彼らはどんな瞬間も、このライトの重さを背負っているのだと、
痛いほど感じたのを覚えています。
人間は自分の立ち位置からしか物事が見えません。
立ち位置がほんの数十㎝変わっただけで、
見える世界は決定的に違います。
どんなに想像力を働かせても、
感じたことのない感覚は取り出せないから。
臆病にならず、怠惰にならず、
可能な限り、愚かなくらい、多くのことを体験していきたいものです。
まだまだ知らない世界ばかりですね。
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