大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

で?なにがやりたいわけ?

   

高校時代、多重録音というものへのあこがれが高じ、
ラジカセをふたつ向かい合わせに置いて、
次々と音を重ねて行ったことがあります。

なんし、アナログな楽器以外なにひとつ持っていなかった頃です。

ピアノ、アコギ、エレキで出せない音は、

ハットの代わりにペンで机を叩き、
バスドラの代わりに床を踏みならし、
ハミングでストリングス的な音を出し・・・

気分よく音を重ねきった頃には、
カセットテープがノイズですっかりマスキングされて、
最初に録った音はすっかり聞こえなくなっていました。

おまけにピアノの上からラジカセを足の甲に落下させて、
しばし歩行不能になったっけ。。。

 

「いつか、プロみたいに、本物の多重録音してみたい!」

 

そんなストレスと憧れに満ちた時代の数年後、
生まれて初めてカセットのマルチレコーダーと、
初期のシーケンサーを手に入れたときは、
幸せで胸がいっぱいになったものです。

 

まだ4トラックしか録れなかった当時のマルチレコーダー。
楽器、アレンジのすべてを担当してくれた先輩ミュージシャンと
デモを制作したときは、

チャンネルの1つに同期信号、
2つ目にモノでカラオケ、
残った2チャンネルでヴォーカルのOKテイクをつくり、
ハーモニーをつけて、
モノのカラオケを消しながら、最後のコーラスのパートをつける・・・。

 

経験のない方には想像しづらいかと思いますが、
2つきりのチャンネルでヴォーカルのOKテイクを録るというのは、
なかなかに大変なことでございます。

何回も、何回も歌って、
大筋、いいテイク録れたから、
一カ所だけ修正しようと、
フットスイッチでパンチイン&パンチアウトして歌ったら、
肝心のいいとこがちょっぴり欠けちゃったり、
せっかく録った歌い出しが欠けちゃったり・・・。

アナログでしたからね。
消しちゃったものは二度と取り返せず。

しかもカセットなんで、
録り直せば録り直すほど、どんどん音が劣化する。

結局、つるっと完璧に歌えるようになるのが一番速くて、
いい結果になる、ということで、
歌の方が上達しました。

まぁ、これはありがたい誤算でしたが。

 

 

そんな雑な録音機材と、
今思えば原始的とも言える、
強弱が4ステップくらいでしか表現されていないシーケンサーと。

海外にいた頃には、もっともっと簡易型の、
ストレスしか感じないちゃちいシーケンサーをつかって、
それでも何十曲と作品をつくりました。

しかし、だからこそ、
PCやら、音楽ソフトやらのありがたさを
心の底から感じます。

 
やりたかったこと、苦労してきたことが、
ちょちょいのちょいでできる。

しかも、何倍も何倍もわかりやすく、
かゆいところに手が届くようなきめ細かい調整までできる。

はじめて手にしたときは、
目の前がば〜っと広がる感じがしました。

 
若者たちと話していて、
「レコーディングとか、やってるの?」と聞くと、

「そうなんですよね。
機材買わなくっちゃとは思っているんですよね」とか、

「やっぱり音楽ソフトとか、覚えなくちゃだめなんでしょうか?」
という返事が返ってきます。

 

いやいやいやいや。そうじゃない。

機材やソフトの使い方が先に存在するのではない。

やりたいことが明確でないのなら、
どんな立派な機材を持ったって宝の持ち腐れです。

 

「これをやりたい!」という欲求や願望がまずそこにある。

「あれがなくちゃ」とか、「これがなくちゃ」とか、
四の五の言わずに、
まず、今、できることを最大限にやってみる。

ありったけのくふうをする。

やがて、自分に本当に必要なものが見えてくる。

 

 

肝心なのは自分の欲望を純化していくことです。

機材はやりたいことを叶えるツール。

それを手に入れたり、覚えたりすることが心のノイズになったり、
目的のようになっては、本末転倒なのです。

 

で?なにがやりたいわけ?

 

いつだって、質問はこれに尽きるのです。

【MTL Online Lesson12】11月生受付は11月5日まで。
◆コアでマニアックなネタを中心に不定期にお届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』。購読はこちらから。

 - My History, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, 夢を叶える

  関連記事

どうして、そんなケガをする?

先日、リビングのゴミ箱にかがみ込んだ拍子に、 サイドボードの端にはみ出し気味に置 …

オリジナリティ

「オリジナリティにこだわってるんで。」 と、オリジナル曲をやっているバンドや、 …

リズム感が悪いと言われたら「発声を見直す」!

「リズムが悪い」と言われたら、 誰もが真っ先に試みるのは・・・ 1.ドンカマやド …

「ボイストレーナーなんかいらない人」になるための3つのポイント

昨日、『MTL ヴォイス&ヴォーカル オープンレッスン12』初日、 Unit1と …

山口県での講演は、ガラにもなくキンチョーからはじまりました。。

先週末、13日は山口県にて 第24回限界突破セミナーに登壇させていただきました。 …

『きみ、ホントに、よくプロになれたよねぇ。』③

どんなお仕事であっても、はじめての時は知らないことだらけであたり前です。 &nb …

Never Too Late!今しかない!

大好きな英語表現に”Never too late”があります。 直訳すると「〜す …

胸の痛みを抱きしめて進め

やっとの思いでミュージシャンの端くれになって、 少しでも一流といわれる人たちに近 …

歌の練習がきっちりできる人の5つの特徴

「練習しなくちゃと思ってたんですけど、なかなか・・・」   状況にもよ …

歌の練習で絶対にはずせない3つのポイント

連日、ご好評をいただいてます、『デモをつくろうシリーズ』。 今日は6回目です。 …