値切らないっ!
アジア圏のとある国へ旅行に出かけた時のことです。
あれはどこの国だったか。。
「ショッピングでは値切るのが文化」、
「売り手の言い値で買い物をするのは損」と、
ガイドブックで明言されている国でした。
買い物のたびに、
ああ、どうしよう、どうやって値切るんだろうと、
いても立ってもいられない居心地悪さに苛まれ、
結局、言われたままにお金を払って買い物をしては、
あぁきっと店員たちは、
あたしたちが店を出たとたんに、
しめしめと舌を出しているんだわと、
今度は無力感に苛まれ、
お買い物が楽しいはずの、その国で、
お買い物のたびに敗北感ばかりが募ったある日、
意を決して、「値切る」に挑戦しました。
どんなやり取りをしたかは、
もはや全く記憶にありません。
しかし、お店を出るときに、
ちらっと私を見た店主の忌々しそうな目つきと、
「値切る」という行為におよんだおかげで、
せっかく手に入れた友人へのおみやげが、
いかにも安っぽいものに感じられ、
さらなる敗北感に苛まれたのでした。
値切ることがあたりまえの文化圏に生まれた人たちは、
きっとスマートに値切って、
軽妙なトークでお店の人をも笑かして、
Win x Winムードでお買い物を思いっきり楽しむんだろうなぁ、、、
なにしろ、江戸っ子の父から、
「武士は食わねど高楊枝」というサムライ・スピリッツを、
嫌と言うほどたたき込まれた私です。
苦しい時も気高く生きるのがサムライ。
見栄を張る、やせ我慢する、というのとは、
ちょっと違います。
「値切る」なんて、みっともない。
そんなことばの根底に流れているのは、
自分が「欲しい」と思うほど価値を感じるものならば、
その売り手や作り手にもリスペクトを払うべきだという、
江戸っ子らしい美学でしょう。
(まぁ、やせ我慢も見栄もゼロじゃないけどね。
ぶっちゃけ。)
何十年お仕事をしていても、
値切る、値切られる、
いや、価格交渉やギャラのネゴシエーションということ自体が、
どうにも居心地が悪いのは変わりません。
ミュージシャン時代も、
ある程度「定価表」的なものをつくれるようになってからは、
いつも、
「私の定価はいくらいくらです。
私はギャラのネゴシエーションはしませんので、
お支払可能な金額をご提示ください。」と告げるだけ。
先方から、それより低い金額を提示されたときは、
その定価を目安に、
お仕事の内容やスタッフさんとの関係性がつりあわなければ断る。
を貫いてきました。
もちろん誰かにお仕事をお願いするときも、
値切ることはありません。
「その価格だと残念ながらお願いできない。」と伝えるか、
「価格が抑えられるオプションはありますか?」と質問するか、
またはシンプルにこちらの予算をお伝えするか、
その3つのうちのどれかと決めています。
お金ほど人の感情が乗る「数字」はありません。
「札びらを切る」ことなど、
まずもってなくなった昨今、
単なる数字と言ってしまえばそれまで。
だけど、そこには人の人生があり、
価値観があり、文化があります。
その数字の意味や、
そこから受け取るイメージ、
その数字を通じて自分を表現する方法は、
100人いたら、100通りある。
値切ることが得意な人も、
値切られることを楽しむ人も、
「値切る」ってなあに?な人も、
全部正しい。
数字で人を値踏みする人がいて、
数字以外の価値を大切と考える人がいて、
数字の意味なんて考えたことがないという人がいて、
それだって、全部正しい。
自分の価値観を大切にしたいなら、
大切にして欲しいなら、
人の価値観を同じように大切にしたい。
自分の尺度で人の価値観を値踏みすることほど、
不毛で無意味なことはありません。
そして、そんなシンプルなことが、
いかにも難しい。
人生、ほんとに、死ぬまで修行です。
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