折り紙と「完コピ」。
腎臓病という病気は何にも食べられない。蛋白も塩気もいけないのだ。これは子供の身にとっては大変なことである。カレーライスの匂いのする日には涙がこぼれた。私の血の中には意地汚い血はあまり流れていなかったにもかかわらず、それから私はイジキタナクなった。
北杜夫の『どくとるマンボウ昆虫記』の冒頭部分です。
私、小学校2年生になる直前に、
この”腎臓病”で2ヶ月ほど入院したことがあります。
この「カレーライスの匂いのする日には涙がこぼれた」感は、
やったことのある人間しかわからないです。
しかも、小2です。
普通に拷問です。
入院中の夜中、
たまたまテレビの下の引き出しを開けたら、
母がこっそり隠してあったに違いない
チョコレートが入っていました。
じーっとそのチョコを見て、
あぁ、これ食べたら死ぬのかな−、
ばれるかな−、
ばれたら叱られるかな−、
って、何度も考えたことを、
鮮明に覚えています。
そうそう。
不二家の『LOOKチョコレート』。
マジで半世紀くらい時間が経ってるのに、
銘柄まで覚えているなんて、
どんだけイジキタナイんだろう・・・。
さて。
入院生活というのは、
食事に限らず、
やっちゃいけないことのオンパレードです。
まして、腎臓病なんて言ったら、
「安静」が絶対ルール。
「これ以上悪くなったら一生透析」と、
言われていたみたいですから、
結構深刻だったんでしょう。
しかし、私、7才です。
「明日の健康より、今日の快楽」なお年頃。
別の患者さんにウケたくて、
ベッドの上で踊りまくって、母にぶち切れられたり、
アニソンを大きな声で歌いまくったり、
まぁ、ろくなもんじゃありませんでした。
ご迷惑おかけしたみなさん、ごめんなさい。
ある日、幼稚園の先生をしていた、
となりのベッドのおばあちゃんのお嬢さんが、
私に英語で書かれた、折り紙の本をくれました。
白黒写真で折り方が紹介してあるんですが、
立体感がなくって、どう折っているのか、
いまひとつくっきりわからない。
「鬼のお面」とか、
「オットセイ」とか、
「椿の花」とか、
とりあえず折ってみたい欲がかき立てられる、
魅力的な題材と、
ちんぷんかんぷんな解説。
そこから、毎日、
狂ったように折り紙をはじめたんです。
あーでもない、
こーでもないと折ってみる。
折っては思い通りの形にならなくて、
いったん広げる。
広げては、また折ってみる。
繰り返しているうちに、
折り紙がくたびれてきて、
やがて破れる。
そんなことの繰り返しで、
ちょっとずつ、
写真さえ見れば何でも折れるようになりました。
どのくらいの期間、
毎日折り紙をしていたのか、
ハッキリは覚えていません。
とにかく、そういうオタッキーな作業が、
楽しくて、楽しくて仕方なかった。
なにより、
写真の通りに仕上がったときの、
あの快感。やった感。
カレーライスどころか、
カレイの煮付けすら食べさせてもらえない、
快感に飢えた、イジキタナイこどもが、
唯一、めちゃくちゃ快感に感じたことだったんですね。
誰かに誉めてもらうとか、問題じゃありませんでした。
ただ、できなかったこと、
わからなかったことがわかる、できるのが嬉しかった。
三つ子の魂百まで。
あの頃はじめて、
「完コピ」の快感を学んだのかも知れないな−。
JFAの千羽鶴写真のバトンリレーを受けて、
久しぶりに折り紙を折りながら、
そんなことを考えた夜でした。
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