大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

バンド世代 vs. カラオケ世代

   

こどもの頃から楽器を練習している人でも、
自分の楽器以外のことはわからないという人は多いものです。

まして、歌が好き、歌手になりたいという人の半数近くは、
ピアノもギターも弾けません。(いや、もっと多いかも)

弾けないだけならまだしも、
「楽器と一緒に歌ったことがない」と言います。

そんな話を聞くたびに、そっかー・・・となる。

この子たちはカラオケのない時代でも、
シンガーを目指したのかな?と
意味のないことを考えてみたりもします。

 

「カラオケ」のない世界で育った私たちは、
楽器の音に合わせて歌を歌うには、
自分で楽器をやるか、バンドをやるか、
音楽教室に入るくらいしか、選択肢がなかったわけです。

ロックなら、バンド一択です。

どんなに下手な人でも、
いや、これから楽器を買ってはじめるっていう人でも、
なんでもいいから、とにかくバンドの頭数をそろえたい!

頭数がそろっただけで、
自分たちはビートルズやツェッペリンみたいな、
音が出せるんだと有頂天になったものでした。

最初はみんな、セーラー服姿でね。

掃除用具入れから引っ張り出した、
箒(ホウキ)をギターみたいに持ちまして、ですね。
バケツやゴミ箱をひっくり返して、
筆箱をマイクにして、バンドごっこです。

ベイ・シティ・ローラーズね・・・


そのうち、バンドごっこしてた仲間が、

「ほんとにバンドやろうよ。」と言い出して、

確か、「私はドラムやりたい」
「私はベースやりたい」のように、
みんなのやりたいパートが、
いい感じで分散して、
「お小遣いためて、楽器買おう!」なんて盛り上がったんでしたが、

やがて、またまた「MISUMIにはついて行かれない」という理由で、
「ごっこ解散」したんだっけ。

 

閑話休題。

 

400人もいた1学年に、
1バンド組めるか組めないかしか、
バンドに興味のある子がいなかった、不毛な女子校時代。
寄せ集めでなんとかバンドを組みました。

もちろん、私も含めて、
みんな「ど」のつく初心者。

生まれて初めて秋葉原のLaox(ラオックス)のスタジオに入った日は、
マイクの音は出ない、
ギターアンプさえ、音が出せない、
あげく、置いてあったのはシンセサイザーで、
うんともすんとも言わない・・・

ドラムの子だけが、
皮のベコベコのドラムセットで、
どっしんばったん、やっていましたが、
確か、ハイハットのネジの閉め方も、
バスドラのペダルのつけ方も、わからなかったんでした。

・・・で、
お店の人に聞きに行ったりする。
まぁ、セーラー服姿の女子高生だから、
他のスタジオからお兄さんたちがいろいろ教えに来てくれる。

やがて、それぞれの彼氏とかがスタジオに来るようになって、
あーでもない、こーでもないと、
楽器やPAのイロハを教えてくれるようになるわけです。

そのうち、バンド軟派されて、
男子校の子たちのバンドで歌うようになったときは、
スタジオが開くがはやいか、
すぐセッティングが終わって演奏がはじまるわ、
バンド用語がものすごい勢いで飛び交っているわで、
カルチャーショックでくらくらしたものです。

そうやって、
ことばを覚え、
一個一個のの楽器の音を覚え、
イケてる演奏と、そーでもない演奏がわかるようになり・・・と、
音楽と付き合ってきたんですね。

 

私が現代の高校生だったら、
それでもバンドをやっていたか?

「路上」ってやつを一人でやったのか?

Youtuberになったのか?

DTMで宅録して配信したり、手焼きでCD売ったりしたのか?

歌ってしゃべれる声優さん目指したのか?

当時そんなものができるとは夢にも思わなかった、
音大のポピュラー音楽コースを目指したのか?

いやいや、そもそも、音楽を目指していたのか?

 

そんな風に可能性を膨らまして考えてしていくと、
楽器のことやバンド用語を知らない若者たちを、
一概に「不勉強だ」、とは言い切れません。

選択肢が広すぎて、
なにに集中したらいいか、まだわからないだけなんですね。

私たちは「見つけ出す」のに苦労した分、
彼らは「捨てる」のに苦労しているわけです。

とにもかくにも、
あきらめずに、捨てて捨てて捨てまくって、
自分のコアファクターを探すしかないんですね。

 

ま、ひとつだけ言えるのは、
いい時代に音楽やってたわよね、ってことですか。

でもって、こういうこと言い出すことが、
年寄りの証拠なんだって、ことですな。

 

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