大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「譜面台を立てるか、立てないか問題」を考える。

   

「譜面台を立てるか、立てないか問題」は、
これまで、さまざまなところで
語ったり、議論したりしてきました。

もちろん、
音楽の種類によって、
コンサートやライブ、セッションの形態や、
それぞれの芸風、個々の信念によっても、
受け持つパートによっても、

正解はぜんぶ違うでしょう。

私も中学時代、ピアノの先生に、
初めて「暗譜してらっしゃい」と言われたときは、
譜面を覚える意味が、正直わからなかったものです。

「クラシックとはそういうもの」。
当時の先生には、そんな風に説明されました。
「つまり、暗譜するくらい練習しなさいって言うことよ」。

確かに、譜面を追いかけているようでは、
「表現」どころではありません。

自分を表現するということは、
100%、自分の「今」を切り取るという行為。

カンペを見ながら表現するのも、
ある種、訓練ではあるでしょうが、
なにも考えなくてもスラスラと指が動くように、
練習してこそ、本当の表現ができる、
ということなのでしょう。

私はそれを信じてきたし、
まぁ、学生バンド時代は、来る日も来る日も、
たった5〜6曲のレパートリーを練習していたのですから、
「暗譜しよう」なんてあらためて考えたこともありませんでした。

はじめてやらせてもらっていたサポートのお仕事でも、
プロデューサーに「バンド、暗譜ね」と言われました。
さらっと言われましたが、これは「命令」です。

そんな環境で音楽をやってきたので、
ステージの上に譜面台を立てて、
譜面から目を離さずに
演奏したり、歌ったりしている人を見ると、
「リハーサルみたい」と思ったものです。
今でも思います。

 

オーケストラやビッグバンド、
コーラスのように、
一糸乱れず演奏しなければいけない現場なら、
どんな小さなリスクも回避しなければいけませんから、
譜面台を立てるのはわかります。

毎日現場の違うセッションマンや
毎日お店でいろいろな人と演奏をするような人たちは、
リハも練習もあまりする暇がないでしょうから、
それも仕方でしょう。

メイン楽器以外をやるなら、
少しでもプレッシャーを少なくするために、
譜面を置くのも理解できます。
(私も、ギターを弾くときは譜面台を置きます)

しかし、クラシックでも、基本、
ソリストは譜面を見ません。
最近でこそ、見ることも許されるようになってきたようですが、
著名なピアニストやヴァイオリニストが、
コンサートで譜面を見ているのを目にすることは、
今でも、滅多にありません。

ポップスでも、ロックでも、
カンペ程度は貼ってあることはあるでしょうが、
基本は暗譜。

ステージの上を縦横無尽に走り回ったり、
照明やステージまわりの仕掛けが多い、
大がかりなコンサートで、
メインパフォーマーが譜面台の前に立って、
歌詞カードから目を離せないままコンサートをやるなんて、
あり得ない。
そんなのダサすぎる。

「ストーンズだって、エアロだって、B’Zだって、
歌詞見て歌っている。」
なんて言う人がいますが、

いやいや、

それは、オーケストラのコンダクターが
進行を時々確認するのと同じです。
どんな小さなミスも、大事故に繫がるからです。
確実に歌詞は9割以上、頭に入っているはずです。

「歌詞カードを見ないと、怖くてライブで歌えない」。

こんなことを訴える人は実にたくさんいます。

「歌詞を覚えようというストレスやプレッシャーで、
ライブを楽しめないなんてイヤなんです」。

といわれれば、
「それはわかる!」と頷きたくなる。

私自身、年齢と共に、
脳のメモリーに限界を感じて、
見ちゃおうかな、と思うことも多々あるし、

どうやっても覚えきれなくて、
足下にカンペが、びっちり、というときだって、
はい。もちろん、あります。

しかしね。

それって舞台役者が、
「セリフが頭に入らないから、台本見ながらやるよ」
って言うのとおんなじじゃないか?

セリフが覚えられなくなった俳優は、
舞台から去るしかないのではないか?

サラだって、エラだって、
歌詞カード立ててなかったよね?
ビヨンセだって、アギレラだって、
立てないでしょ?

「だって、それがプロだから」
それに尽きるのではないか。

暗譜のプレッシャーより、
譜面を置く、譜面を見るということの方に、
ストレスを感じることも多々あります。

ライブの最中にステージ上が盛り上がって、
譜面台が揺れて、
歌詞カードがバラバラと落ちる。

iPadが譜面台から落ちちゃって、
パニクっていた人もいます。

ライトが真っ暗になって、
譜面が全く見えなくなって、
とんでもないコード弾いちゃってるプレイヤーを
目撃したことも、何度もあります。

違う曲の譜面を見ていることに、
途中まで気付かなかった、
なんてツワモノもいました。

視力が悪くて、
足下に置いた歌詞カードに向かって、
猫背になっちゃってる人もたくさん見たし、

ミュージシャンが譜面を追うのに必死で、
全然アイコンタクトが取れずに、
結局進行がぐちゃぐちゃになってしまう、
なんて、ライブも
死ぬほど経験してきました。

お客さんに集中したい。
自分の感情や感覚に、音に集中したい。

集中するポイントはみな違うから、
「譜面や歌詞を見た方が集中できるんだ」という人がいるなら、
きっとそれはそうなのでしょう。

どちらがダメとか、言いません。
「正しい」は人の数だけある。

結局、最後は、それぞれの、
「美学」の問題です。

 

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