「そうか、映像にもグルーヴがあるんだ。」
広告代理店の映像&音楽プロデューサーの下で、
音楽選曲のお仕事をさせてもらっていた時代があります。
某自動車メーカーのディストリビューター向け、
新車の性能紹介ビデオにBGMを選曲する、
というお仕事でした。
イメージビデオではなく、説明ビデオ。
英語のナレーションが延々と入っている後ろに、
さりげなく入れる音楽で、
映像の雰囲気を盛り上げます。
ダイナミックな車の疾走シーン。
ホイールやサスペンションのクローズアップ。
エンジン内部の解説。
エクステリア、インテリアのデザイン。
駆け出しの頃は、
ナレーションを邪魔しない、
場面の雰囲気を壊さない曲を選曲するだけで四苦八苦。
プロデューサーにも、
ずいぶん怒鳴られたものですが、
コツをつかんでくると、
選曲次第で
シーンを盛り上げたり、
疾走感を高めたり、
クラス感を演出したりできる、
音楽のチカラを、実に興味深く感じたものです。
映像にはカットというものがあります。
例えば、車のインテリアを紹介するだけでも、
ダッシュボード全体から、
メーターまわりのクローズアップ、
ハンドルの動きから、スイッチまわりへ・・・と、
ひとつのシーンは、
いくつものカットの組み合わせで構成されているわけです。
音楽をつけるときは、
シーンによって曲を切り替えるだけでなく、
映像のテンポ感と、
カットチェンジのタイミングを意識します。
これらが曲のテンポや
展開のタイミング、
小節の切れ間にぴたりとハマると、
映像がぐっと引き締まって見えるのです。
もちろん、言葉で言うほど簡単なことではありません。
映像にあわせて曲をつくるならまだしも、
山のようなありものの曲のライブラリーの中から、
その映像にあう曲を見つけ出すのです。
レコードの時代のお話です。
「メタデータ」なんてものはどこにも存在していません。
音楽出版社のライブラリーにお邪魔して、
ざっくり分類されているレコード棚から、
もうね、霊感、ヤマカンで、レコードをどさっと借りてきて、
そこから選ぶのです。
思えばすんごいことやってました。
さて。
毎回どやしつけられながら、
悩みながら、試行錯誤しながら、
数をこなしているうちに、
やがて、不思議なことに気付きました。
これだ!と思う曲を選曲して、
映像と合わせてみると、
カットチェンジのタイミングと、
音楽のリズムがぴたりとシンクロする瞬間が、
何度も訪れるのです。
8小節目で映像がポンと切り替わる、
次の16小節でまた別のカットに。
曲が展開するタイミングと、
シーンが展開するタイミングが、
見事に合っちゃうときもある。
やがてお仕事に慣れるほどに、
偶然でなく、意識的に、
この「シンクロニシティ」を
つくれるようになっていきました。
「そうか、映像にもグルーヴがあるんだ。」
そんな風に気付きました。
映像ディレクターだって、
心地いいと感じるタイミングで、
カットチェンジをするはず。
彼らが感じているグルーヴを共有できれば、
そこにシンクロニシティが生まれる。
音楽でも、映像でも、文章でも、
結局、グルーヴなんだなぁと。
なんか、妙に腑に落ちてから、
選曲のお仕事は実に楽しいお仕事になりました。
人の「気持ちいい」は、
普遍的な感覚なのかも知れませんね。
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