好きであることは自分への責任であり、義務である。
「好きなことをみつけて、それを一所懸命やれよ。
好きなことのない人生はつまんねーぞ。」
こどもの頃から、父に繰り返し言われたことばです。
父は本当にぶれることのない人で、
高校時代に試験勉強をしていたら、
「お前は、試験の成績とギターの練習と、どっちが大事なんだ?」
と、謎の質問をしに部屋にやってきたことさえありました。
「大学行かないで音楽やる!」と言ったら、
「ばかだなあ、お前、大学なんて勉強しにいくとこだと思ってんのか?
親にも学校にもなんの制約も受けないで、
働けとも言われないで、
ただ、好きなことだけ思いっきりやっていいぞって時間なんだぞ。
社会に出ちゃったらそうはいかねーぞ。
行かないなんて、もったいねーぞ。」
と、呆れたように言われました。
それから、自分の、演劇三昧、麻雀三昧だった大学生活に話がおよび、
「俺なんて楽しすぎて、人より1年丁寧に大学行ったんだからな」
と、自分が留年したことを自慢話のように話すのが常でした。
そんな父ですから、
「就職どうするんだ?」という類の話は、
とにかく、ただの一度もされたことはありません。
大学4年で音楽学校に通い始めた時も、
フリーターになって、ライブばっかりしていた時も、
応援以外のことばをかけられたことはありません。
毎日、焦燥感にうちひしがれそうになりながら、
がむしゃらに音楽と向かい合っていた私を
何も言わず、じっと見守ってくれていたようです。
「お前、こういうの歌ってみろよ」と、
ダイアナ・ロスのレコードを、
いきなり買ってきてくれたことがあります。
はじめての単独ライブの直前に、
いきなり「舞台化粧の仕方」という本を買ってきたこともあります。
あるとき突然、
「お前さ、俺は、お前がいつかグラミー取るって、
真面目に信じてんだぞ。」と、
じっと目を見て言われた時は、
さすがに、「うちのおじさん、絶対イカレてる」と思ったものです。
そんな父が、音楽のことで私に苦言を呈したのは、
ただの1度だけです。
それは、私がコーラスのお仕事をはじめて、
全国ツアーに参加して、
そこそこのギャラをもらえるようになった時のことです。
生活もちょっと派手になって、
テレビに出たり、仲間と遊び歩いたり・・・
ちょっといい気になりかけていました。
「お前、ホントにその仕事がやりたいのか?
コーラスやりたくて、歌やってたのか?
コーラスになりたくて歌の世界に入るヤツなんて、
お前、ホントにいると思うか?」
フリーターから脱して、
やっと「プロ」と呼ばれるようになって、
心の中で、「しょーがないじゃん」と自分を納得させながら、
向いてもいない芸能界に、
一所懸命順応しようと思っていた自分。
「ったく、パパはなんにも分かってないんだから」
と、うるさそうにいなしたけど、
心の中で、「ちっくしょー」と叫んでいたのを覚えています。
「好き」であるということは、
すべてから自由になれる免罪符。
私は、そんな教育を受けてきました。
好きであることに言い訳はいらない。
好きであることを恥じることはない。
好きであることにブレーキをかけてはいけない。
本気で好きであるかどうか。
どんな瞬間も「好き」を試され続けている。
こんなもんかと、
無理矢理自分を納得させたり、
中途半端なところで、あきらめたり・・・
本気で好きなら、そんな妥協は許されない。
好きであることは何の制約もない、限りない自由であると同時に、
自分自身に対する、
恐ろしいほどの責任であり、義務である。
好きを極める。
人生って、結局、それしかない。
自分自身への言い訳のない「好き」を。
命ある限り。
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