大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「正しく気づけない」から上達しないのだ

      2019/12/26

「神は細部に宿る」と言われます。

細部の大切さは誰もがわかっているはずなのに、
あらためてそんな風に言われるのは、
それほどまでに、
細部にこだわることが難しいということでしょう。

そもそも、その「細部」に気づくことが難しい。

正しく気づく能力を身につけた段階で、
成長や改革の8割は終わると言っても過言ではありません。

この「正しく気づく」は3つの力に集約されます。

1.自分がしていることの精度を、瞬間瞬間に正しく判断する力。

2.自分のどこが、なぜ、どのようにダメなのか、正しい情報を手に入れる力。

3.精度の高いパフォーマンスとはどのようなものなのかを、正確に読み解く力。

 

歌であれ、スポーツであれ、仕事であれ、
上達しない人は、自分のしていることの精度がわかりません。

わかりやすく説明するために、ギターリストを目指しているイケてない女子高生M(昔の私ですな)を例にしましょう。

毎日めちゃくちゃギターを練習している女子高生Mは、
いつか必ず「女・ジェフ・ベック」と呼ばれるギターリストになれるのだと信じています。

しかし、女子高生Mには、1.の「自分がしていることの精度を、瞬間瞬間に正しく判断する力」が絶望的に不足していました。

まず第一に音楽の素養が圧倒的に不足していたため、
チューニングがあっていないことにも気づけない。
いわゆる耳コピも苦手で、売っている楽譜に頼るしかない。
通っていたのが女子校であったため、
周囲に音楽をやっている仲間が極端に少なく、
自分の腕前の正しい評価どころか、
チューナーやエフェクターなどのハードの情報さえも知ることがない。

そうです。

「正しい」がわからないのですから、
「できているかどうか」も、もちろん、
「どんなレベルなのか」さえもわからないわけです。

 

女子高生Mは、そんなある日、
「お前ギター、へたくそだな」という、
男子学生たちに出会って衝撃を受けます。

「あんたたち、何言ってんの?」

女子高生Mは、
そんな彼らのギターを聞いてやろうじゃないのとばかり、
彼らの通う男子校の文化祭に乗り込みます。

そこで、衝撃を受けます。
そう、みんな、「めちゃくちゃ」うまいのです。

打ちのめされた女子高生Mは、
彼らと自分との違いを分析することに集中しました。

その結果導き出された結論は、
信じられないくらい短絡的なもの。

例えば、Yくんは毎日ギターと一緒に寝ているくらいギターが好きらしい・・・という謎の情報にはじまって、
男の子はメカに強い。
男の子は指も腕も長い。
ギターは女子に向いてない。
・・・まったく意味不明です。

実際には、
ギターを本当に上達したいなら、
まず、どんなにうまく聞き取れなくても、
ちゃんと聞こえるようになるまで、
何度も何度も音源を聞いて、
耳でコピーする力をつける必要があります。

そして、弾き方や押さえ方などなど、
教則本に依存せず、自分で徹底的に研究して、
弾けるようになるまで掘り下げる必要がある。

さらには、どうしたらカラダのサイズのハンデを克服できるか、工夫する必要もあったでしょう。

今の時代なら、ネットで簡単に手に入る情報ばかりですが、
女子高生Mの時代は、
まず、「正しい情報を手に入れる力」を身につける必要があったんですね。

 

さて、成長した女子高生M。
やがて、プロ・ギターリストH(ジェフ夫さんですな)と出会います。

ジェフ・ベックが得意という彼の前で、
昔自分が夢中で練習したジェフ・ベックを披露して、
驚かせてやろう、などと邪な気持ちを抱きました。

そこで、ちょっと貸して、とばかりにギターを手にし、
タブ譜で覚えたジェフ・ベックの曲を弾き始めたその瞬間です。
プロ・ギターリストHが不思議そうな顔で言います。

「え?それ、なんの曲?」

ジェフ・ベックの曲ならなんでも知っているはずの、プロ・ギターリストH。
何言ってんの?なんでわかんないのかな〜?
と、笑いながら、曲名を告げると、
はは〜んと不敵に微笑むプロ・ギターリストH。

「タブ譜とかって、うそばっかりだからね。
そういう風に聞こえる?」

はい?

ジェフ・ベックみたいに弾きたい!
そんな風に必死に練習していたはずなのに、
女子高生Mは、オリジナルのよさも、
なぜかっこいいのかも、
それはどんな音で、どんな風に弾いていて、
なぜ自分は好きなのかということも、
なにひとつわからなかったわけです。

もちろん、3.の「精度の高いパフォーマンスとはどのようなものなのかを、正確に読み解く力。」どころではありません。
何にも聞けていなかったのです。

そのままギターを続けても、
一生うまくならなかったに違いない女子高生Mは、
やがてあっさりとギターリストの夢を捨てることになるのですが、

さて、ではどうしたら、「気づく」の3つの力を身につけることができるのか、というお話は、また次回!

人気ブログの記事の解説やプライベートなお話を週1回お届けしているヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』。
無料購読はこちらから。

 - B面Blog, 「イマイチ」脱却!練習法&学習法, イケてないシリーズ

  関連記事

「エアギター」のススメ

ギターリストになりたくて、 明けても暮れても練習していた時代があります。 今やこ …

「負の妄想」をぶっ壊せ!

一昨日のマインドセットセミナーで、 15年前の妄想日記の一部を紹介するという、 …

何ごとにも終わりはくる。絶対の絶対に、くる。

好きなことしかやりたくない。 こうと決めたら即断即決即行。 私自身は、いわゆる「 …

歌の練習がきっちりできる人の5つの特徴

「練習しなくちゃと思ってたんですけど、なかなか・・・」   状況にもよ …

練習環境を整えることこそ、練習の最重要課題!

先日、毎月ヴォイトレを担当している、 某事務所の若手声優たちのワークショップを …

腰が硬い人はリズムが悪い!

以前教えていた音楽学校で、 「演奏中の動きがぎこちない学生が多い」という話になっ …

ぶっ壊すことを恐れない。

CMの作詞のお仕事を依頼されたときのことです。 某大企業のCMの歌詞を書かせてい …

I wish you were here

海外に住んでいた頃、 「またね」と抱きしめ合って別れを交わしながらも、 あぁ、き …

「いい音」出したいっ!

いいプレイヤーか否かは、1音聴いただけでわかる。 そんな風に言う人がいます。 そ …

安定させる!~Singer’s Tips#30~

高いところに行くと、やたら声が大きくなる。 低いところに来ると、こもってしまう。 …