「イケてないアンサンブル」を打破する方法(準備編)
大学や専門学校のカリキュラムの中には、
与えられた課題曲を、バンド形式で演奏するという、
いわゆる「アンサンブル」の授業があります。
課題曲といっても、
ごくスタンダードかつシンプルなポップスやロック、R&Bが中心で、
クラシックやジャズ、フュージョンなどのような、
複雑なテクニックが要求されるような曲はまれ。
さらに1〜2週間前から、音資料に加え、ご丁寧に譜面までもらって、
授業に備えられるわけですから、
音大生や専門学校生を丸1年〜2年もやっているような生徒なら、
ちょっと練習すれば、一通りの演奏はできるはずです。
しかし、実は、8割以上が、ちゃんとした演奏にならない。
マトモに練習してこない、なんてのはもちろん問題外なんですが、
どうやらある程度練習してきたらしい子でも、
びっくりするくらい曲がわかっていない。イケてないのです。
譜面は追えているし、
書かれていることはとりあえずやれている。
それなのに、全然、演奏にならない。
どうしたわけでしょう。
例えば、ずいぶん昔のことになりますが、
課題曲に”Little Wing”を選んだときのこと。
この曲は、ジミ・ヘンドリックスの泣かせるギターイントロが、
あまりにも有名な曲なのですが、
そこで、とある生徒が、
いきなりパワーコードで、じゃんじゃかじゃかじゃか♪と
弾き始めたのです。
「ちょっと待ったぁ〜っ!何その曲?」
と、びっくりして演奏を止めて、
曲の成り立ちや、イントロの大切さを説明した私に、
「わかりました。オリジナル通り、コピーすりゃあいいんですね。」
と、わかったような顔をして言い放った某ギター科の研究生。
まぁ、彼のその後の運命についてはここでは触れませんが、
もちろん、そういうことではない。
完コピである必要はないけれど、
曲の持っているテイストやグルーブを理解することなしに、
その曲は演奏できなません。
曲が全然わかってないから、
デリカシーのない演奏になってしまう。
先生方は、テイストやグルーブ、音色などを盗んで、
自分のものにするために、「完コピをしろ」と、勧めるわけです。
こんなこともありました。
ブラスセクションのフレーズが非常に印象的なとある曲を
バンド編成の問題で、キーボードが担当したときのこと。
フレーズは実にシンプル。
確かに譜面通り弾けています。
でも、音色といい、ダイナミクスといい、音符の長さや切り方といい、
とにかくしょぼくて、びっくり。
「この曲って、とにかくブラスが肝だから、
もうちょっとなんとかならないかしら?」
と、言う私に、困ったような顔で、
「でも〜・・・このキーボードって、こういう音なんで・・・」
といいながら、音色を探すガールズ。
しかし、音色だけの問題じゃありません。
曲をちゃんと聴いてくれば、
知らん顔して演奏をはじめる前に、自分なりに準備してくるなり、
質問するなり、できるはずなんです。
実際、とある男子生徒は、レッスン室にあるキーボードには目もくれず、
休み時間にガラガラと自分の機材を運び込んでセッティングをし、
完璧に近い音色で演奏をしていました。
これが準備というものです。
他にも、
ブルーノートを完全に無視して、
青空よりも明るくR&Bやブルース系のリフを弾いてしまう子、
Rockバラードというのに、
テンションだらけのベースフレーズで音の間を埋めてしまう子、
跳ねているリズムを知らん顔して、
根性ビートで叩いてしまう子・・・などなど、
KYにもほどがあります。。。
テクニックがないわけじゃない。
練習してきていないわけじゃない。
不真面目なわけでもなければ、
無駄にオリジナリティを出そうとして、奇をてらっているわけでもない。
一体全体、なぜなんだろうと、さんざん悩んだ結果、
「彼らが、課題曲を『音楽』として聴けていないから。」
という結論に至りました。
つまり、「木を見て森を見ず」なのです。
無難に、そつなく、役割をこなそうと必死になるあまり、
自分のパートだけに焦点を当てて、
肝心の音楽としてのその曲を理解できていない。聴けていない。
自分のパートだけ抜き出して聴いて、とりあえず練習しているけれど、
メロディも、アレンジ全体も全く見えていない状態。
曲のテイストやグルーブなど、わかるはずもありません。
これでは、どんなに練習しても、
「イケてないアンサンブル」のままです。
さあ、本題。
「イケてないアンサンブル」を「イケてるアンサンブル」にするために、
個人レベルで、すべき準備は・・・
1.とにかく曲を聞き込むこと。
楽器を置いて、じっくり音源を、何度も聞く。
他の楽器が何をしているのか。
歌と演奏はどんな関係性を持っているのか。
焦点を当てるポイントを変えて、聞き込んでいきます。
2.歌ってみること。
歌詞なんか適当でかまいません。
演奏しながら、歌う。
それだけで、曲のグルーブへの理解が圧倒的に深まります。
3. 踊ってみること。
音楽はフィジカルなものです。
カラダを動かして、はじめてグルーブがわかります。
音に身をまかせるうちに、さまざまな音が聞こえてくるものです。
4. youtubeなどを見ること。
耳から情報が拾えないなら、視覚情報を頼ってみましょう。
多くの人が、聴覚より、視覚からの方が情報を拾いやすいものです。
こんな素晴らしい時代に生きているのだから、
アドバンテージを生かして欲しいものです。
5. さまざまなカバー・バージョンを聞いてみること。
スタンダードな曲は、
世界中のミュージシャンにカバーされているものです。
youtubeやitunesで探せば、いくらでも出てきます。
(日本のサイトで出てこなければ、
英語のサイトや、米国英国のituneストアなどを利用する)
カバーを聞けば、共通するグルーブや、
鉄板の崩してはいけないフレーズなどがわかるものです。
今日の話はとっても大切なので、ものすごく長文になってしまいました。
どんなに技術があっても、譜面が読めても、
曲のテイストがつかめない人、グルーブがわかっていない人、
アンサンブル的にKYな人はプレイヤーとして、絶対に成功できません。
心して、修行に励みたいものです。
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