大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

アドリブは「テキトーに演る」ということとは全然違う。

      2016/01/09

「ここはアドリブっぽく歌ってください」

「8小節、アドリブお願いします」

 

このように「アドリブ」ということばは実によく使われることば。

ミュージシャンなら1度や2度は聞いたことがある、
もしくは、自分も「アドリブ」したことがあるに違いありません。

 

しかし、この「アドリブ」を
「テキトーに歌う」「テキトーに演奏する」くらいの意味に解釈している人が、
非常に多い。

だから、

とりあえずメロディを崩す、
でまかせで、テキトーに演奏する、など、
なんだかイケてないアドリブになっちゃうわけです。

 

では、「アドリブ」とは、本来、どういう意味でしょう?

 

はい。広辞苑の出番です。

【アドリブ(ad lib)】
①ジャスで、一定のコード進行やテーマに基づいて,演奏者が即興的に行う演奏
インプロビゼーション。
演劇放送で,出演者が台本にない台詞(せりふ)や演技を即興ではさむこと。また,その台詞など。

 

 

もちろんここでは、①の意味。

さて、では、「即興的に行う演奏」とはなんでしょう?
即興的その場その時の興にのって,即座に行うさま

即興演奏あらかじめ決められた譜面に頼ることなしに,即座に創作しながら演奏すること。インプロビゼーション。
そう。「テキトーに」というような意味はひとつもないのです。

 

「アドリブ」の精度があがらないのは、
そもそもの、ことばの解釈を勘違いしているからではありませんか?
「即座に創作しながら演奏する」とは、
その場でいきなり作曲をするようなイメージです。

 

ごまかし的なフレーズでとりあえず小節を埋めたり、

なんだかピッチが定まらない、煮え切らないメロディを、
「これがアドリブ」と言わんばかりに歌ってみたり、

スケール練習とチョーキングやトリルで、
とりあえずコードトーンを弾き倒す、

というようなこととはぜ〜んぜん違います。

 

精度の悪いアドリブならやらない方がマシ、というのが私の持論です。
オリジナルのメロディを歌うなり、
決まったフレーズを弾く方が、よほど演奏のグレードを下げずにすむはずです。

 

「ひぇ〜。MISUMIセンセイ。そんなこと言われたら、
アドリブできなくなっちゃいます〜。」

という街の声が聞こえてきそうです。(^^)

 

いえ、いえ。

ここで言っているのは、練習やリハでの演奏のことではありません。

練習やリハではバンバン、テキトーなメロディを演奏したり、
ピッチの悪いフレーズを連発したりすればいい。

 

多くの作曲家が鼻歌でメロディをつくります。

みんながみんな、
曲をつくるなり、ピッチやフレーズを完璧に歌えているわけもありません。

だれもが、音をはずし、曖昧なメロディを、「テキトー」に歌いながら
メロディを考える。

 

しかし、大切なのは、その先です。

そうやって、即興的にできあがった、自分なりのフレーズを、
きちんとセーブして、
ひとつひとつの精度を上げていかなくてはいけません。

 

何気なく歌ううちにできたフレーズを、
きちんと整理して、ピッチもしっかり整えて歌えるようになって、
よりリズムやビートのハマリをカッコよく修正して、

そうしたフレーズを、いくつも、いくつも、
自分の「アドリブBANK」に貯金するのです。
先人の名演をコピーするのもひとつの方法です。

 

初心者のうちは、本当の意味での「アドリブ演奏」よりも、
そうしたフレーズを覚えて演奏するくらいでちょうどいい。

垂れ流し的に、思いつきのフレーズを、テキトーに演奏し続けていたのでは、
いつまでたっても精度はあがりません。

 

やがて、自分の「アドリブBANK」がイケてるフレーズであふれる頃には、
何も考えず、自由自在にアドリブ演奏が楽しめるようになり、
さらには、聞く人を感動させられるような、アドリブを披露できるようになるはずです。

 

整理しましょう。

アドリブは・・・

1.恐れず、臆せず、自由に創ってセーブする。
2.周到に、綿密に、そのひとつひとつの精度を上げる。
3.「アドリブBANK」に次々格納し、必要に応じて取り出す。

 

やがて、何にも考えずに、

自分の「アドリブBANK」から、次々フレーズが飛び出したり、
格納した覚えもないような、
新たなフレーズがいきなり科学反応的に生まれたりするようになる日まで、

 

修行は続くのです。

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 - イケてないシリーズ

Comment

  1. あき より:

    全く同感です。

    feelするためにはいろいろthinkした経験がないとですね。thinkだけじやもちろんらあかんけど。

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