大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「うまくなりたい」なら、一点突破!

   

それまでのシーケンサー+MTRという作曲スタイルをPC主体のDAWに移行しようと一念発起したときのこと。
音楽ソフトには、電話帳のように分厚いマニュアルがついてきました。
内心、どっひゃあとひっくり返りそうになりながらも、先行投資したからには、「何が何でも、このマニュアルを読破して、ソフトをものにしてやる!」と気合いだけは人並み以上だった私。
ところが、あまりのちんぷんかんぷんさに数日で音を上げ、そのソフトの攻略本を書いている知人に家庭教師を依頼しました。いわゆるインチキです。

(私なりにがんばったんです)ということを伝えたくて、「一応、マニュアルは80ページくらいまで読んだんですけど」と言うと、先生は、「あかんあかん。それ、挫折するパターンやわ」と、あきれたように言います。

「やりたいことをやるにはどうしたらいいか、それだけ覚えたらええねん。
なんでもかんでもやろうとしてたら、なんにもでけへんよ。」

あぁ、先生お願いしてよかった…と、恥ずかしいやら、ありがたいやら。
と、同時に、「これ、歌にも共通する真理じゃないか?」と膝を打ったのです。


〜「うまくなりたい!」なら、一点突破!〜

■あれもこれもと欲張らない

うまくなりたい!と思ったら、今、上達したい曲を数曲まで徹底的に絞ること。

ジャンルはなんでもいい。
自分に向いているとか、向いてないとか、そういうことも、どうでもいい。
とにかく、この歌を歌いたい!と心の底から思う曲を決めたら、それだけを徹底的に練習すること。

バンドなどでライブが決まっていれば、選曲をしたら決め打ちでそれだけを練習することになる。
バンドをはじめたばかりの頃は、メンバーもみんな発展途上で、とにもかくにも何度も何度も練習するし、反省会なんかもやったりするから、それでどんどん上達する。

「歌えないから、次の曲」「これは向いてないから、他の曲」とやっていたのでは、一生上達しません。

一点突破の覚悟が大事です。

■選曲の基準は「歌いたい」。それだけ。

この時点で、向き不向きは、考えないに限ります。
歌えないから練習するわけで、できることばかりやっていれば、1ミリも成長できません。
せっかく練習するなら、歌いたい曲、好きな曲。選ぶべきはそれだけです。

好きだから、歌いたいから、何度でも聞ける。
一所懸命練習できる。
だから上達する。
実にシンプルです。

■練習のくふうを重ねる。

テンポを落とす。
いろんなキーを試してみる。
発声方法をくふうする。
歌詞を取っ払う。
歌詞だけ朗読する…など。

上達の歴史は、練習方法を模索する歴史でもあります。

ネットでお手軽に情報を拾っても、自分の正解にはたどり着けません。
「こんなことやってみたら?」と閃いたら、それを徹底的にやってみる。
しっくりこなければ修正を加える。
落ち込む暇はありません。
上達のために必要なのは、感情でも体力でもありません。
知力と探求心。これに尽きます。

■歌えるまで歌う。

脳は怠惰なもの。
練習を続けることは、忍耐と工夫の連続で、エネルギーの消耗が激しいため、なんとか続けなくて済むように、巧みに「あきらめる理由」をでっち上げてきます。

練習をはじめたすべての曲が、自分の十八番になるわけではありません。
とはいえ、ちょっと練習したくらいであきらめていては、1歩も前に進めません。

「こんなもんか」という妥協点ではなく、「ここまではがんばろう」という満足点を高く持つことが大事。

アーティストの歌と並べて聴いても、遜色ないと思うまで上達するのは、一朝一夕というわけにはいかないでしょうが、少なくとも、自分の歌を聴いて、「悪くない」と思えるレベルを目指す。

高い理想を掲げることを怖れないことが大事です。

■アドバイスはありがたく、聞き流す。

「なんか言いたい」という人は、もうほんっっとにどこの世界にもいるものです。
まして、音楽をはじめたばかり、歌をはじめたばかりのニューフェースは、知ったかぶりたい人たちの格好の標的。

そんなことやってても、なんちゃら。
あんな歌手は、どーちゃら。
お前のようなほにゃららは、かんちゃら…など。

ハッキリ言って、意見してくる人の8割は、
マウント取りたい、すごい人だと思われたい、というパフォーマンス系の人、または、
とりあえず何か言いたい、うんちく系の人。

そんな人たちのアドバイス、決して有害無益とは言いません。
こんな風に思う人がいるんだ、そういう考え方があるんだと知ることは、音楽人生を味わい深いものにしてくれます。

しかしです。
そんな無責任な言いたがり族のことばにいちいち翻弄されて、そのたびに、方向性を変えたり、選曲を変えたりしていたのでは、時間がどれだけあっても足りません。

何か言ってくれる人のことばは、まずは、ありがたく受け取る。
その時の自分にとって、腑落ちすることば以外は全部ノイズと心得て、さっさと破棄する。
いつか、「そういえば、あの時言ってくれたことばって、こういう意味だったのか」とわかる日もくるかもしれません。
そうしたら、その時に心の中で、お礼を言えばいい。
人はそうやっておとなになるんですな。

結局のところ、歌がうまくなるかどうかを分けるのは“マインドセット”です。
突き抜けてやるという覚悟。それがある人は、必ず伸びます。

旅を経て、もう一度、歌とまっすぐ向き合いたいという思いが強くなりました。
一緒に、一点突破していきましょう。


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