期待される人であれ。
ニューヨーク時代のこと。
週1回、ジャズダンススタジオでレッスンを受けていました。
世界中からプロダンサーが集まるスタジオです。
中級以上のクラスは、いつもショーを見るような迫力で、
ただただ、見とれるばかり。
私が取っていたのは「踊るのためのカラダづくり」が目的の、
初心者向けクラスでした。
全レッスン時間の4分の3以上がストレッチと筋トレで、
地味でオタッキーなレッスンが大好きな私にはぴったり。
最後にちょっとだけ曲をかけて、
インストラクターが短い振り付けをします。
ある日、インストラクターのレスティフォさんが、
私が完コピをしていたチャカ・カーンの曲を流しながら、
短い振り付けをはじめました。
振り付けというと、
いかにも華麗に踊っている風ですが、まぁ、なんちゃってです。
それでも、得意のチャカの曲。
しかもレパートリーの1曲。
たいして身体は動かないんですが、
不思議に、ものすごくエネルギーが乗りました。
2グループに分かれて、
交代にパフォーマンスをしていた時のことです。
イントロが流れる瞬間に、
レスティフォさんが、みんなの注意を私の方に向けながら、
「彼女の踊りを見ていて。
彼女は曲を感じて、それを全身で表現しているのよ。」
と、言っているのが目に入ってしまいました。
みんなの視線が一斉に私に注がれます。
テンパりました。
いいとこ見せなくちゃ、という気持ちと同じくらい、
失敗したらどうしよう、と緊張し・・・
振り付けすべてが、見事にぶっ飛びました。
私はモジモジし、照れ笑いを浮かべながら、
なんとか、その場をやり過ごすことに必死でした。
みんなが呆れたような、がっかりしたような顔をした、その時です。
レスティフォさんが私に向かって、こう言いました。
「自意識過剰もいい加減にしなさい!
できないからって、モジモジうじうじ踊るなんて、みっともないっ!」
私に期待し、みんなのお手本になって欲しいと思ってくれていた、
レスティフォさんの思いを、私は見事に裏切ったのです。
もうずっとずっと昔のことなのに、
私は、あの時のレスティフォさんの、
がっかりした顔を忘れることができません。
期待にこたえられなかったことが悔しかった。
自意識過剰になって、
モジモジ、へらへらしてしまった自分が許せなかった。
なにより、大切なシーンで、
実力を出せなかった自分が腹立たしかった。。
私は、あれ以来、
一度だって、人前でパフォーマンスをするときに、
モジモジ、うじうじ、へらへらしたことはありません。
あんな後味の悪い想いは、一生に一回だけで充分です。
実力が追いつかないなら仕方ない。
しかし、大切な場面で力を出し切れないことは、
悔やんでも悔やみきれない。
まして、自意識過剰になって、
照れ笑いや追従笑いを浮かべるなんて、
負け犬や卑怯者のやることだ。
いつもいつも最高のパフォーマンスができなかったとしても、
せめて、期待してくれる人の思いに恥じない、
精一杯の自己表現をしていこう。
そう心に誓ったできごとでした。
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