駆け出しの若い女は舐められる
まだまだ駆け出しで、
レコーディングのお仕事も、ぽつぽつと来はじめたばかりの頃。
「ちょっとさぁ、コーラス録れに来てくれない?」
知り合いのミュージシャンから連絡をもらいました。
連絡をくれたのが、どんな繋がりの人だったか、
なぜ私が呼ばれたのかさえ思いだせませんが、
ベテランの、そこそこキャリアもあったミュージシャンの方だったと記憶しています。
年齢的にも倍近い人でしたから、
そんな人にお仕事に呼んでもらったことで、
なんだか認められたような気がして、
緊張とワクワクの入り交じったような気持ちで現場に向かいました。
指示された場所に行ってみると、
そこは営業スタジオではなく、どなたかの自宅スタジオ。
通された部屋は、酒瓶がゴロゴロ転がっていて、
まるで居酒屋のような匂いがしました。
ご機嫌な感じで私を出迎えてくれたミュージシャンたちは、
みんなもれなく真っ赤な顔をしていて、
「あー、なんか、嫌な場所に呼ばれちゃった」と、
落ち着かない気持ちになったものです。
リビングの端のガラス扉で仕切られたブースに入り、歌いだせば、
「おお、いいね〜」「ご機嫌だね〜」と、
何をやっても誉めてくれます。
え?こんなんでいいの?というテイクでどんどんOKが出て、
レコーディングが進むほどに、
あぁ、こりゃダメだなと、どんどん気分が滅入りました。
ベテランミュージシャンのみなさんに、
「ありがとう!」「いいの録れたよ」と口々にいっていただき、
ニコニコと握手を交わして、帰路についたわけですが、
その後、請求書を出したいと連絡をした時点で、
あからさまに先方の態度が変わり、
それっきり連絡がなくなりました。
仲間のミュージシャンが集まって、
楽しくレコーディングしようぜって会だったのかも知れませんが、
こちらは単なる顔見知り。
知ったこっちゃありません。
果たして、あれはちゃんとした作品になったのか、
いやいや、一体全体、誰のどんな作品だったのか、
今となっては全く思いだせませんが、
忘れられない教訓を私に残してくれた出来事でした。
1.駆け出しの若い女はナメられる
2. 酒飲みながら仕事するヤツを信用するな
3. 初めて仕事をする相手とは先に条件を話し合え
4. 人にものを頼むときは年齢関係なく最大限の敬意をしめせ
5. 「ゆるさ」は伝染する
ゆるい現場で仕事をすれば、自分の歌の精度もゆるくなる
学びや気づきをくれるのは、
一流のミュージシャンと一緒にやる大きなお仕事ばかりじゃありません。
苦しかったお仕事や嫌だった体験からも、
同じくらい、学ぶことはあります。
それらが全部まるっと、自分自身のキャリアになるのですね。
「あ、それ、もしかして、俺のこと?」と、
心当たりのある方は、ぜひご連絡ください。
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