大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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「ギャラ交渉」はいつだってちょっと甘酸っぱい

      2016/06/01

多くの日本人はお金の話が苦手です。
 

人の持ち物の値段や、人の年齢を聞くときは、
(その方がよほどプライベートなお話だと思うのだけど)
びっくりするくらいフランクに聞いてくるのに、

なんなら、「結構稼いでるんでしょ?」なんて話も、
突拍子もなくできるくせに、

自分が受け取るお金や支払うお金の話になると、
なんだかもじもじ、おずおず、悪いことでも聞くかのようになってしまう。

 

 

そんな文化のせいもあって、
以前、「ギャラ、おいくらですか?」でも書いたように、
ギャラ交渉は、フリーのミュージシャンの仕事の中で、
最も感情を揺さぶられる、苦しい作業のひとつと言えます。

 

特に、時間制限などを設けずいい作品をつくろうという、
アーティストのレコーディングの場合や、

曲が完成して、映像にあてても、
その曲が採用になるか否かは、クライアントさんたち次第。
電波に乗る瞬間までどんでん返しも普通にあり得るような、
CMのお仕事の場合などでは、
制作者側も、予算が見えないため、
最後の最後まで、ギャラの話はしてきません。

 

余談ですが・・・

ちょっと前に大阪のとある街角で
友人のミュージシャンと待ち合わせしていたら、
いきなり、どこからともなく現れたおじさんが耳元で、
「いくら?」と聞いてきたことがあります。

どうやら、その筋の女性が多く立つ場所だったらしいのですが、
(私に声をかけた、おじさんのマニアックさもさることながら)
人類最古の職業ですら、値段交渉は先にするんだなぁと、
妙に関心したものです。

 

時間通りにスタジオに入ったのに、前の作業が押していて、
待ち時間がやたら長いとき、

レコーディング作業が長引いて、22時終了予定だったはずが、
気がつけばてっぺん回っていて、
午前2時になっても、作業が終わる気配が見えない・・・というようなとき、

ひとりで呼ばれたのに、
「ゴスペル風でお願いします」なんて言われて、
1人で5声、すべてのパートをダブル、トリプルで歌い倒したとき・・・。

 

作業が終わって、「お疲れ様でした〜。ご連絡します!」
とにこやかに送り出され、

(ちなみに、ここでの「ご連絡します。」は、
「ギャラの話は改めて」という意味なんですよね。)
 

こちらも「ありがとうございました〜っ!」と元気よく言いながら、
心の中で、
「お願いだから、納得いくギャラを提示してくださいね」と
祈ってしまうのは、人情というもの。

 

元々、音楽が好きでミュージシャンになったのですから、

 

時間制限なしにつくれるような作品に関わらせてもらえることは、
冥利に尽きます。

自分の声がメディアに乗れば、
胸のすくような気持ちになりますし、
 
ましてそれが、映画やテレビ番組のテーマソングや、
一流企業のCMソング、有名アーティストのコーラスなどのように、
たくさんの人の耳に触れるものであれば、
もちろん、誇りも喜びも感じます。
 
歌うことは大好きですし、
要求するままに、何時間でも歌える自分をありがたいとも思います。

 

でも、です。

だからこそ、です。

 

最後の最後の締めくくりのギャラのお話も、
可能な限りスムースに、
納得いく金額を提示していただきたい。
 
そうしていただけたら、ありがたい。

 

それこそが、すべてのミュージシャンの願いではないでしょうか?

 

とにもかくにも、

胸を張って自分のスタンダード価格を提示できるよう、
自信と経験を積み上げること。
 
その上で、先方から提示された金額にはネゴシエーションをしないこと。
 
そうした、クライアントとの信頼関係を育てること。
 
納得できない、信用できない相手とは、次の仕事をしないこと。

 

体験的に学んだ音楽業界の働き方です。

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 - 音楽業界・お金の話

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