キー設定にこだわり抜く
「キー、D♭でお願いします」
そんなことを言って、いい顔をしてくれるのは打楽器と鍵盤楽器の人だけです。
「Dだって、歌えるでしょ?」
「Dだとちょっと鳴りすぎて。D♭の声の鳴り感がちょうどよくって」
「Cじゃダメなの?」
「やや暗くなっちゃうんですよね」
この音は出る、これでは歌えないというレベルの話ではありません。
「このキーでこの歌を歌っている自分の声が好き」という、
非常にマニアックなこだわりです。
アーティストでも歌のうまい人ほど、
キー選びは慎重に、こだわりを持ってやっている印象です。
ライブなら、ま、いいか、となるところですが、
自分の作品として残るレコーディングだと、ここで妥協すると、
大袈裟なようですが、一生後悔することにもなりかねません。
たとえばD♭ってキーは、弦楽器の人には確かに嫌なキーなんです。
気持ちよく鳴らせない。
弦楽器の人だって、気持ちいい音で演奏したいわけで、
もちろん、その気持ちはわかります。
「違い、わかんないけどね」
などと上から目線で言われると、
ついつい、「わかりました」と言ってしまいそうになりますが、
いやいや、
自分自身が迷っていたり、
それでもいいかと思わない限り、
ヴォーカリストは、ここで妥協すると、絶対に後悔します。
声が気持ちいいところにあたらないこと、
100% の集中力が発揮できないのです。
こんなもんで仕方ないか、とどこか妥協点を探します。
100% 振り切ってやれても、満足のいくパフォーマンスができる確率は、
けして100%にはなりません。
最初から言い逃れの種を自分に与えてしまってはいけないんです。
可能な限り自分自身にとってベストな条件をそろえて作品づくりに挑む。
そこがゼロ地点です。
自分にとってベストな環境を整えてもらうということは、
それだけパフォーマンスに責任があるということ。
キーへのこだわりって、
ある意味、ヴォーカリストのアイデンティティへのこだわりであると同時に、
「最高の歌を歌う」という、
自分に対する、周囲に対するコミットメントでもあるわけです。
あなたは歌のキー、どこまでこわだって決めていますか?

■無料メルマガ『声出していこうっ』。プライベートなお話からマニアックなお話まで、ポップな感じで綴っていきます!(ほぼ)毎週月曜発行!バックナンバーも読めますよ。
関連記事
-
-
キーは、歌えりゃいいってもんじゃないんですよ。
カバー曲を歌うとき、 無条件にオリジナルのキーで歌っている人は多いはず。 私自身 …
-
-
「自分の声に興味ある人なんかいませんよ」
芸能界や音楽業界の人とばかり関わりあってきたからか、 それとも、私自身がボイスト …
-
-
「声」はエネルギー。
キャリアの節目を迎え、 「急に、自分の声が気になるようになって」と、 レッスンや …
-
-
確信だけが、人の心を動かす。
「MISUMIさん、バッチっす!OKです!」 レコーディングのお仕事では、 歌っ …
-
-
「一点集中力」vs.「俯瞰集中力」
ミュージシャン、アクターに限らず、 スポーツマン、タレントから、講演家まで、 人 …
-
-
「仕事ができない」と言われる人にはワケがある
どんな人が「仕事ができる人」と呼ばれるかは、 業界によって、少しずつ違います。 …
-
-
「自分の声が嫌い」をやめる方法
自分の声が嫌い。 この、やるせない思い。 実は、”Voice con …
-
-
”飽きない”。”慣れない”。”手を抜かない”。
何年やっている曲でも、 自分自身がその曲と向かい合うたびに、 新しい発見があった …
-
-
失敗も含めて「ライブ」なんだ。
どんなに、どんなにがんばって準備をしても、 ライブやコンサートには、失敗やアクシ …
-
-
プロ、セミプロ、セミアマ?ミュージシャンの働き方
高校時代、一緒にバンドをやっていた仲間のひとりに、 フリーターをしながら、あちこ …
- PREV
- 音楽は進化を続けている
- NEXT
- 駆け出しの若い女は舐められる
