大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

自分の「ウリ」を見つけた女は強い

   

「MISUMIさんって、ジャニスみたいですね。」
若い頃から、そう言われるたびに、首をひねってきました。

ブルーズロックを歌って、言われるならまだしも、
アレサ・フランクリンやチャカ・カーン、
グラディス・ナイトなどなどの、
R&Bやブラコンを歌っているのに、
「ジャニスだぁ〜」と言われる。

これは長いこと、自分にとっての七不思議でしかありませんでした。

ロックの女王みたいだって言ってもらってるんだから、
素直に喜べばいいのでしょうが、
自分ではマネしているつもりもないし、
声が似ているとも思ったこともありません。

少なからず抵抗を感じていた時期もあります。

もちろん、ジャニスの完コピだって、したことはあります。

しかし、チャカやティナやダイアナのコピーに夢中になったほど、
ハマったわけではありません。

ジャニスの曲は、私の完コピした300曲のほんの一部でしかありませんでした。

 

それでも、伝説のロックの女王のハロー効果は絶大です。

「この人、ジャニスみたいな歌、歌うねん。」と紹介されれば、
私の歌なんか1ミリも聞いたことがない人も「おー」となる。

ジャニスのナンバーを歌えば、
歌い出しただけで、いきなり会場が沸く。

 

若い頃は「ジャニス好きでしょ?」とか、
「やっぱ、ジャニスですか?」なんて言われるたんびに、

「あ、いえいえ、
私のアイドルはツェッペリンとティナ・ターナーで・・・」

「こどもの頃からブルースを聴いていたんで・・・」

などと、言い訳(?)したり、抵抗したりしたものですが、

 

あんまり何を歌っても、
どこへ行っても言われるもので、
(実際、海外放浪時代もどれだけ言われたかわかりません。)

いつの頃からか、
「めんどくさいから、これ、使っていこう。」と、
思っちゃうようになりました。

 

「MISUMIサンって、どんな歌歌うんですか?」

「ロックです。ジャニスみたいって言われます。」

「へぇー。すごいんですねー。」

これで会話は終わりです。

「ジャニス」という名前の持つ、
強烈でわかりやすい印象のおかげで、ずいぶん助けられました。

 

林真理子さんが昔ご著書の中で、
「自分の『ウリ』を見つけた女は強い」
というようなことを書いていました。

わかりやすいセールスポイント。
アピール・ポイント。
自分のアイコンとなるもの。

それらがくっきりすればするほど、
自分のブランドが立ってくる。

人に興味を持ってもらったり、
思い出してもらったりしやすくなる。

 

ビジネスマンなら必ず考える、こんなことも、
真っ正面から音楽をやっていると、
なかなか思い至れないものです。

仕事の現場でも、
「どの辺のジャンルを歌っているんですか?」と聞かれ、
少しでも仕事につなげたくて、

「なんでも歌います。
R&Bやロック、ソウル、ジャズっぽいものも。。。」などと、
言っていた頃よりも、

「ロックです。」と自分の特徴を言い切るようになってからの方が、
幅広く、たくさんのご縁をいただけるようになりました。

 

もちろん、ことばだけではダメです。

「ウリ」をアピールしたいなら、
そのクオリティを高めることが一番です。

自分の「ウリ」を勘違いして、
デフォルメし過ぎれば、痛々しく映ります。

 

自分がやりたいこと、できること、そして、求められること。
この3つの交わるところに、「ウリ」は見つかるのではないか。

そう信じて、探し続けるしかないのです。

 

さて。

私の「ジャニス問題」には後日談があります。

何年か前に、
某有名ロックギターリストYさんとセッションをする機会がありました。

メンバーのリクエストもあり、
久々にジャニスの曲を1曲だけ、メニューに入れました。

メンバーも会場も大盛り上がり。
気持ちよく打ち上げで飲んでいた時のことです。

Yさんが、突然、
「MISUMIちゃん。
ボクは、MISUMIちゃんには、もうジャニスは歌って欲しくないな。」
と言うのです。

「ジャニスが好きなのはわかるけど、
自分のルーツをそんな風に出しちゃうのは違うと思うんだよね。」

・・・。

大先輩の温かいアドバイスをありがたく伺いながら、
つくづく、難しいものだなぁと、思った夜でした。

◆【第6期 MTLヴォイス &ヴォーカル レッスン12】
全12ユニット6日間で歌が劇的に変化する【MTL ヴォイス&ヴォーカル レッスン12】。第6期も順調にお席が埋まっております。
お申し込みはお早めに。詳しくはこちら

◆毎朝お届けしている【メルマガ365】では、今日から「ジャニスを完コピ」の連載がはじまりました。
バックナンバーも読めますので、この機会に是非。無料購読のご登録はこちらから。

 - My History, The プロフェッショナル, 音楽人キャリア・サバイバル

  関連記事

シンプルでもいい。複雑でもいい。「生きる」を楽しむ。

学生時代、小笠原の父島という島を、 友人たちと共に自転車を担いで訪れたことがあり …

「そこまでやる?」がオーラになる。

「そこまでやらなくても・・・」 思わず、そんな風に言いたくなるほど、こだわりの強 …

『「頭の中が真っ白になる時」チェックリスト』

人前に立ってパフォーマンスをしたり、話をしたりする人で、 「頭の中真っ白現象」を …

どんな不調も、見て見ぬふりをしない”しつこさ”が勝負!

今日はものすご〜く私事ながら、 声をお仕事にしている方、歌っている方に、 もしか …

ボイトレ七つ道具、公開(^^)

最近、講演やセミナーをするときだけでなく、通常のボイトレをするときにも、 声のし …

やっぱり私、変態でした。

ちょっと前から自分が、 いわゆる”変態”なのかも?と、 うっすら自覚 …

「ライブ前にやらなくちゃいけないこと」なんて、なんにもない!?

「ライブ前に、絶対しなくちゃいけないことってありますか?」   そんな …

駆け出しの若い女は舐められる

まだまだ駆け出しで、 レコーディングのお仕事も、ぽつぽつと来はじめたばかりの頃。 …

口コミで仕事がくる人の秘密の習慣

音楽業界のような、入れ替わりの激しい、熾烈な場所で、 私のようなヴォーカリストが …

「向いてない」って、なんだよ?

つい数日前、はじめて訪れた耳鼻科の先生に、 「この声帯の形からすると、あなた、 …