大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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うまいからプロになれるのか?プロになるからうまくなるのか?

   

うまいからプロになれるのか?
プロになるからうまくなるのか?

ニワトリとタマゴの法則です。

 

歌がうまくなるために、重要なことは3つ。

1.「こんな歌を歌いたい」という明確なビジョンを持つこと

2.自分の歌と、理想の歌との距離を正確に知ること

3.距離を埋めるためのトレーニングを過不足なくこなすこと

 

 

プロの世界、特にレコーディングの現場で仕事をすると、
真っ先に必要になるのが、1.の「ビジョン」。
「こう歌って欲しい」がクライアント側に明確なときもありますし、

これから歌うべき曲そのものが、
「こう歌って!」と語りかけてくるようなときもある。

そして、もちろん、「自分ならこう歌う」「こう歌いたい」がある。

 

クライアントとビジョンを共有できなければ、
つまり、クライアントが「○○みたいな感じで歌って」と、
要求するイメージを理解できなければ、
クライアントサイドも、歌うこちらも、
ひどいフラストレーションを抱えながら仕事を進めることになります。

最悪の場合は、「つかえない」「なんか違う」と、
追い回されて、別の人にお仕事が行ってしまうことさえあります。
無事にビジョンが共有でき、
こちらも、自分が歌いたいイメージを明確にでき、

歌い手がそのビジョン、イメージ通りの歌を的確に歌えて、

はじめてお仕事はスムースに進むのです。

 

しかし、本当の試練はその後です。

次に待っているのは「地獄聴きの刑」。

 

歌っているこちらは、
ブースの中で、ヘッドフォンに耳をこらして、

別室のディレクター、エンジニア、プロデューサー、
アレンジャー、クライアント、アーティスト・・・etc.の方たちは、

コントロールルームの、
それはそれは、よく聞こえるスピーカーの前で、

何度も、何度も、自分の歌を聴くことになります。
ときには「オンリー」、
つまり歌だけを抜き出して、聞いたりもします。

 

「我ながら完璧に歌えた〜」と思うようなことは、
まぁ、滅多にありませんから、

これぞ、針のむしろ。

 

ガラス張りの向こう側、
コントロールルームで、みなさんがなんだかんだと話し合っているのが見える。

こちらからは、声は聞こえませんが、

表情を見ると、「ありゃ、イマイチだったかな?」と思ったり、
「わ!全然気に入ってない・・・?」と冷や汗が出たり・・・

 

この後、出されるリクエストを、またしても的確にくみ取って、
要求されるイメージに、より近づけていかれるかどうかが重要なわけです。

 

うまくいかないことなんて、もちろん、数え切れないくらいあります。

その度に、家に帰って落ち込み、
次のチャンスに向けて、少しでもよくなっておこうとがんばる。

同じようなお仕事が、明日くるかもしれない、
もちろん、一生来ないかもしれない。

 

しかし、それでも、

ダメだったときこそ、それをバネにして、
きちんと準備OKにしていかれるかどうかで、
プロとしての資質が試されているとも言えます。

だからこそ、あれこれ練習方法を試行錯誤しながら、
最も有効な練習方法を探しだし、ひたすら自分を鍛えるのです。

 

うまいからプロになれるのか?
プロになるからうまくなるのか?

 

わかっていることはただひとつ。

うまく歌えないと、
お仕事はあっさりなくなっちゃう・・・これだけですね。

あー、こわいこわい。

46945178 - young female singer seen through glass in recording studio

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 - The プロフェッショナル

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