大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「自然体」を演出する。

   

「自然体でステージに立っているようすがカッコいい」
などと評されるアーティストがいます。

 

何千人、何万人を前に、
家でのんびりしている時のような気持ちでパフォーマンスすることは、
もちろん不可能。

そこそこのアーティストになれば、
何人もスタッフがついて、
衣装やヘアメイクも相談の上決定するわけですから、

「自然体な感じでいきましょう」と、
ルックスそのものも、仕掛けられているわけです。

 

余談ですが、
契約社会のアメリカでは、
アーティストたちは日常の服装や髪型までも、
細かく指定され、少しでも違反すれば訴えられることさえあるようです。

ラフに見えるスタイルも、すべて計算されているのですね。

 

10年ほど前に、お話した、某有名アーティストはこんなことを言っていました。

「昔は、いかにも衣装ですって服でステージに出るのがカッコよかったけど、
最近は、楽屋に入るときの私服のまま、
ラフな感じでステージに立つ方がカッコいいとされているんだ。

だから私服から、衣装にしてもいいようなスタイルのファッションを心がけてるよね。」
つまり、ステージの上が自然体に見えるよう、
日常から演出しているわけです。

これはなかなか奥の深い話です。
一方で、ずいぶん昔のことですが、こんなこともありました。

2人の黒人ミュージシャンと一緒に、
R&B系のアーティストのサポートをしたときのこと。

プロデューサーから、TシャツとGパンでステージに出るようにと命じられ、
2人の黒人が怒り出しました。

「人前に出るときは教会に行くのと同じなんだ。
ボクたちは正装しなくちゃ。
それがボクたちの日常なんだ!」

 

 

「人前に出るときは正装すること」が彼らにとって、自然なこと。

 

この場合、プロデューサーは、
「ラフに見える衣装」を用意すべきだったのでしょう。

 

アーティストのように、
コンスタントに自分自身を人前にさらす仕事をする人にとっては、
日常もすべて、仕掛けの一部。

 

 

バッチリお化粧して、完璧に衣装をつけて・・・

おそろいのスーツを着込んで・・・

ロックファッションに身を包んで・・・

 

どんなスタイルでステージに立つとしても、
そこは必ず自分の日常の延長です。

人前に立つときだけ、別人になることはできない。

ステージの上の自分が自分の一部であるように、
日常も、アーティストとしての自分の一部なのです。

 

 

自然体な自分自身の日常を演出することなしに、
ステージ上の自分を演出することもできません。

 

結局、アーティストとしての人生を生きる覚悟を決めた人だけが、
本物のアーティストになれるのかもしれません。

8088891 - young beautiful woman with guitare

コアでマニアックなネタをお届けする、ヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。

 - Live! Live! Live!, The プロフェッショナル

  関連記事

学ぶ姿勢

誰かから何かを学ぶときは、 ひととき自我のスイッチを切り、 その人の言うことを、 …

お金、時間、労力、そして愛情をかける

楽器の人たちが機材をそろえるのに使っているお金、時間、労力は、 並大抵ではありま …

スタジオ・ミュージシャンって何するの?

私のプロフィールには、 「500曲以上のレコーディングに参加した」と書いてありま …

ヴォーカリスト必読!マイクとモニターの超絶役に立つお話!!!〜前編〜

昨夜のブログ、そしてメルマガにて、モニターやマイクのお話を書いたところ、 なんと …

熱意とか、負けん気とか、激しさとか、悔しさとか。

MTL Live2017、大盛況の元に終了いたしました。 ご参加いただいたみなさ …

譜面台を立てる時のチェックポイント〜プロローグ〜

こちらのブログで繰り返し語っているように、 「ヴォーカリストたるもの、 人前で歌 …

自分自身こそが「最も手強いオーディエンス」だ/『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』

「観客のことは意識しないことにしている。 クリエイトするときはいつもそうだ。 ま …

人前に立つ前の「MUST DO!」〜ビジュアル・チェック編〜

昨日のブログ、人前に立つ前の「MUST DO!」〜ムービー/チェック編〜の続編で …

他人の作品を「表現する」ということ。

ケン・ソゴルという名前を聞いて、 「おぉ、懐かしい」と思う人は、 どれくらいいる …

「本番に弱い自分」を払拭する。

さんざんレッスンして、 万全の体制で現場に乗り込んだのに、 「MISUMIさぁ〜 …