大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

*

「お腹は凹ますのか?突き出すのか?」問題について語ってみた

   

「歌うときは、おへその下10~15㎝下を少~しずつ凹ませましょう。

このとき、肋骨はできるだけ広げたままをキープして。」

MTLが指導する、「歌う呼吸法」です。

 

歌やヴォイトレを複数の先生について習った経験のある方は、
多かれ少なかれ、
この呼吸法の説明のバリエーションの多さに、混乱を覚えます。

 

「え?意識するのはお尻の穴って習ったんですけど・・・」

「お腹って、声出すとき、突き出すんじゃないんですか?」

「息をお腹で深く吸い込めって言われてきました・・・」

 

え〜〜っと・・・

 

まず、すべてのヴォーカルトレーナーの方たちの名誉のために申し上げれば、

感覚的な説明をする場合、正解はひとつではありません

 

歌うときの呼吸の感覚は、
ヴォーカリストの数だけあると言っても過言ではない。

例えば、箸の正しい使い方を説明するのに、
どこの指に神経を集中させて、
どこに力を入れて、という感覚を言語化すれば、
10人が10人、違う説明をするでしょう。

自分にとって、結果を出せた方法が、自分の正解。

これが、「伝承」の難しさであり、奥の深さでもあります。

 

「え〜〜!!??そんないい加減なぁ・・・
じゃ、なに信じたらいいか、わかんないじゃないですかぁ〜〜・・・」

 

と読者の方が一斉にディする声が聞こえました(^^)

 

ご安心ください。

感覚はいろいろで、
だから教え方もいろいろなんですが、

何万年も進化していない人間のカラダにとって、
歌うときに最も効率のいい呼吸というのは、ひとつしかありません。

 

一定の量の空気を、
一定のスピードで、
コンスタントに出し続けられること。

必要に応じて、圧力の微調整こそあれ、
基本は、あくまでも、
「一定」「コンスタント」そして、もちろん「省エネ」です。

 

 

さて。

大きな風船の中にたくさんの空気を入れて、
空気の出口を軽〜く閉じて、

その出口が(風船の吸い口のところですね)
いい感じにぶるぶるぶるっと振動するように、
一定に、いい感じの量の空気を、
なるべく長い時間出し続けられるようにするには、
さて、どうしたらいいでしょう?

風船の方を押さなければ、
空気は全く出ませんから、当然振動も起きません。
つまり、声も出ません。

だから、どこかを押すわけです。

この際、上部を押そうが、下部を押そうが、
関係ありませんね。

空気は外に出ようとします。

しかし、ただガ〜ッと押してしまえば、
空気の量も圧力もスピードもコントロールすることはできません。

一気に空気はなくなってしまいます。

 

風船の吸い口も、
いい感じの振動どころか、
ぶぴぴぴぴぴぴっとものすごい音を立てて、
最後は一気にブハッと空気を外に出そうとするでしょう。

 

そこで、この、押しだそうとする力と拮抗する力が必要になるわけです。

ここで、風船が形状記憶だと想像してください。

つまり、押そうとする力に風船そのものが抵抗します

その2つの力が空気の量やスピード、圧力を一定に保つのです

 

 

人間のカラダに話を戻しましょう。

押し出そうとする力は、
コントロールが容易かつ、力強くなくてはいけません。

たくさんの呼吸を扱うことを考えれば、
可動域が広いことも大切です。

その役割を担うのは、
骨盤低筋群、腹横筋などの下腹部の腹筋群です。

「お尻の穴」と考えた方が下腹部の腹筋を意識しやすいのか、
「おへそ」と考えた方が意識しやすいのかは、
人によって違うのは前述のとおりです。

私のように、「愛の歌を歌うときに、お尻の穴のことを考えたくない」という人もいるでしょう。

 

最初に意識するポイントは、どうあれ、
お腹を使っていくのは下から上。

下腹部を徐々に締め上げていくイメージなのです。

 

その際に、形状記憶の役割をするのが、肋間筋、
すなわち、肋骨のまわりの筋肉です。

下腹部の力で空気が押し出されようとするときに、
肋骨が形状を保とうとすることで、
空気の量、スピード、そして圧力が一定に保たれるわけです。

この、肋骨を外側に押しだす、と言う感覚を
「お腹を膨らませる」と感じる人もいるということです。

 

いかがでしょうか?

 

呼吸法は無酸素運動をする人たちにとっても、
エアロビクス、ヨガやピラティスなど、
有酸素運動をする人たちにとっても、
悩ましい問題です。

しかし、人間のカラダにとっての真実は、
何万年も変わっていません。
どんな風に感じるのが自分にとって一番しっくりくるのか。

さまざまな情報を取り入れた上で、
正解を探すのは、結局、自分自身なのですね。

 

41031702 - redhead caucasian woman breathing while sitting in lotus yoga pose at the green wall

コアでマニアックなネタをお届けする、ヴォイトレ・マガジン『声出していこうっ!me.』
購読はこちらから。

 - カラダとノドのお話, 声のはなし

  関連記事

「死ぬほどへたに歌う」をやってみる

世界中の人が、来る日も来る日も、 次から次へと流れこんでくるニュースに胸を痛め、 …

いい音を聞くのだ!

「最初に手にする楽器がいい楽器だと、上達は圧倒的に早い。 だから、こどもにはでき …

声の変化の分岐点を探す

今日のA面ではダイエットの話を書きました。 自分のカラダの変化の分岐点を見つける …

「お前、練習してんのか?」

先日、とある忘年会で、大先輩のミュージシャンに、 「MISUMI、ビジネスはいい …

声の変化と向き合う vol.2〜変化を受け入れ、味わい、楽しんだものが勝ち

「声の老化」についての第2回です。   第1回は、年齢を免罪符にせず、 …

「ヴォーカリストはまず姿勢!」の本当の意味

「MISUMI先生は、姿勢、姿勢っておっしゃるんですけど、 姿勢をよくする意味っ …

ヴォーカリストは「声」が命

歌に関することを、ずいぶんいろいろと書いてきました。   姿勢、呼吸な …

no image
ボイトレにストレッチって、必要ですか?

ボイトレをはじめると、必ずと言っていいほどやらされるのがストレッチです。 やれ「 …

仮死状態の筋肉をたたき起こす

ボイトレというと「ストレッチをさせられる」というイメージがある人が、 多いのでは …

1音にこだわる!~Singer’s Tips #6~

歌のトレーニングの基本中の基本であり、 上達のために最も重要なことのひとつは、 …