大槻水澄(MISUMI) Blog 『声出していこうっ!』

ボイストレーナー大槻水澄(MISUMI)が、歌、声、音楽、そして「生きること」をROCKに語ります。

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オトナなんて怖くない。〜アーティストたちの「大物」エピソード〜

      2018/11/18

これまで、たくさんのアーティストやその卵たちの指導をしてきました。

関係者の方たちに許可をいただいて、
プロフィールに名前を掲載させていただいている以外にも、
本当にさまざまな出会いがあって、
指導する側でありながら、反対にたくさんのことを教えられています。

さすが、若くして業界のおとなたちを魅了する若者たち。
みな、実に個性的かつパワフルで、
「はぁ〜、大物だぁ〜」とため息がでてしまうこともしばしばです。

今日はそんな中から、2名の大物ガールズの、お披露目ライブの逸話を、
外人仮名にてご紹介します。

一人目はデビュー目前で、
大きなコンベンションライブを終えたばかりのヘレン(仮名)のお話。

コンベンションライブといえば、これからの活動をサポートしてくれるであろう業界人、
所属レコード会社やプロダクションの関係者、マスコミ、イベンターなどなどを
集めて行うお披露目ライブのことで、
あまりのプレッシャーに力を出し切れない新人アーティストも数多くいます。

「緊張したでしょう?大丈夫だった?」という私に、

「いいえ、全然。
私、緊張とか、しないんです。」と答えるヘレン。

思わず「へぇ〜。社長さんとか、マスコミの人とか、気にならないんだ!?」と言うと、

「所詮ただの人、というか・・・。」と、さらり。

20代前半にして、この余裕はすごいことです。
この子は確実に大物になるなぁと感じた瞬間です。

2人目のマリリン(もちろん仮名)のエピソードは、さらに傑作です。

こちらも、一般のお客さんに加え、業界人を何人も招いての大切なライブでのこと。
私も招かれて、そのライブに出かけました。

正直、教え子のライブを見るのは本当にドキドキします。
一緒に練習してきた曲の数々を1人のオーディエンスとして、
本人たちと向かい合って聞くときの緊張感は、
自分がステージに立っているときと同じくらい、いや、それ以上です。

ご機嫌なようすでギターを持ってステージに現れたマリリン。
気持ちよくギターを弾き、歌いはじめます。

「あれ?」異変に気がついたのは、彼女の声を聞いた瞬間です。
声がガラガラなのです。
昨日まで、あんなに調子よかったのに・・・
ついには1曲目の終わりで、声がすっかり枯れて、歌えなくなってしまいました。

こんな時、私の頭の中を走馬燈のように思いが駆け巡ります。

なんでこんなことになっちゃったんだろう。
リハで声、セーブしろってちゃんと言ったじゃない?
夕べ、寝られなかったのかな?昨日、声、出し過ぎちゃったのかな?
あぁ、もっと力緩めて歌う練習に時間かけなくちゃいけなかった。。。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。。。泣きそうです。

そうして、2曲目のイントロをギターで弾き始めた次の瞬間です。
マリリンは、いきなり、ギターを弾く手を止めて、こう言い放ったのです。

「あー。今日はもう歌える気がしない。」

は?

会場にいたお客さんも、関係者も、全員が、「今、なんてった?」状態で、
しーんと静まりかえりました。

「今日、リハーサルでものすごく気持ちよくって、歌い過ぎちゃったら、
なんか、声枯れちゃったみたい。
だから、今日はもう歌うのやめよう。」

開いた口がふさがらない会場全体を尻目に、マリリンはこう続けます。

「でも、まだ持ち時間あるから・・・何しよっか?」

へ?何しよっかぁ〜〜?

「わかったっ!質問コーナぁー!
みんな、マリリンに質問したいこと、どんどん聞いて!」

す・・・すごい。
この空気感で、こんなことが言えてしまう神経はどこから来るのか?
マリリンの大物ぶりに、会場にいた業界人は開いた口がふさがりません。

ひとしきり、「質問コーナー」でファンの質問に答えた後、
まだ時間があまっていることに気がついたマリリンが、
次に言ったことばは、さらに驚きでした。

「まだ時間あるね・・・。あ。わかった!
ここでみんなで曲を作ろう!えっと・・・こんなイントロどうかなぁ?」

そういうと、おもむろにギターを弾き出し、コードを組み立てはじめます。

やがて、「はい。じゃ、こんな感じで。みんな歌って!
テキトーでいいんだよ。よかったら採用するよ。」

・・・・

結局最後までその調子で、マリリンの出番は終わりました。

彼女がステージから去った後、
会場の後ろに陣取っていた業界人たちの間からため息が漏れます。

「すっげえ。大物だ・・・」

マリリン、18才のときのことです。

後日、うちにやってきたマリリンは、こう言いました。
「MISUMIさん、本当にすみませんでした!
あの後、楽屋に戻って、悔しくて、悔しくて号泣しちゃいました。
あれから何日も眠れませんでした。」

ボーカリストにとって、ステージ上で声が出なくなるということは、
死んでしまうほど恐ろしいことです。

そんなときにパニックにならず、
自分のキャラクターを業界人にバッチリ印象づけることに成功したマリリン。

その後、デビューしたマリリンは、もちろん、今も活躍しています。
大物エピソード、まだまだありますが、また折を見て紹介しますね。

 

 

 - The プロフェッショナル, 音楽人キャリア・サバイバル

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