「音楽はひとりではできない」の本当の意味
サポート・コーラスのお仕事で日本全国をツアーしていた頃。
ツアー先の地方の会館に早めに入り、
スタッフさんたちが舞台を組み上げている様子を見るのが好きでした。
照明スタッフ、音響スタッフ、舞台スタッフ、楽器関係を扱うスタッフ。
ロビーには、警備担当のスタッフや物販のスタッフもいました。
楽屋回りには、ケータリングスタッフやマネージメントスタッフもいた。
ステージの中央で歌うボーカリストは、
なんて、たくさんの人たちを動かしているんだろうと、感動したものです。
こうしたスタッフさんの他に、リハーサル時間〜本番に開場入りする、
ミュージシャン、ダンサー、事務所関係者、
イベンター、移動手配会社の人たち、レコード会社の人たち、
時には、映像関係のスタッフやテレビ局の人たちまで。
それはそれは、たくさんの人が携わって、初めてツアーは成立する。
2000〜3000人(時には10000人規模)を集め、
毎夜千万単位のお金を動かすということは、そういうことなのだと。
そして、自分自身はその大きな移動物体の、
小さな歯車のひとつでしかないのだと無力感を感じるとともに、
青天井の業界と、まだまだ先が見えない自分の未来に、
なぜかワクワクドキドキもしました。
音楽はひとりではできません。
それは、「人間は、一度にひとつの楽器しか弾けない」という、
狭い意味のことばではない。
演奏する人がいて、演奏できる場を提供してくれる人がいて、
サポートしてくれるスタッフがいて、
見に、聴きに、来てくれるお客さんがいて、はじめて成立するということ。
人を大切に思うことなしに、
人に大切に思ってもらうことはできません。
人に愛されたい、注目されたい、尊敬されたいと、
欲しがるばかりで、自分が何も与えられなければ、
やがて人は自分から離れてゆくでしょう。
長年活躍できる一流のアーティストたちは、
みな、そのことがよくわかっています。
楽曲の制作から、自分自身というブランドのつくり方、
ツアーコンセプトやステージづくり、カラダづくり、
衣装、パフォーマンスなどなど、
毎回が、いかに最高の自分を提供できるかという挑戦です。
そのエネルギーが、また、多くの人を動かすことになるのです。
規模の大小こそあれ、音楽が演奏される場で起きることは同じです。
人のエネルギーが集まって、同調して・・・
音楽の醍醐味は、演奏する人も、サポーする人も、聴く人も、
そんなエネルギーを全身で浴びるように感じ、共有すること。
自分1人で宅録して、1人で満足することも、
ひとつの音楽の形かもしれません。
しかし、音楽の本当の気持ちよさは、人と人との触れ合いから生まれます。
少なくとも、私はそう信じています。
音楽はひとりではできないから。
おごることなく、「こんなものか」とごまかしたり、あきらめたりすることなく、
甘えることも、怠惰になることもなく、
いつも人を魅了するエネルギーを発散できるような自分であること。
そして、人を大切に思うこと。
音楽の現場に限らず、
人間にとって本当に大切なことは、そうたくさんはない気がします。
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